溝鼠どぶねずみ)” の例文
瓦斯中毒のために、この家の主人鶴彌と一匹の溝鼠どぶねずみとが同時に心臓麻痺で死んだとする。そういうことは如何なる状況の下に於て在り得べきことか。
地獄の使者 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この眼力に間違いなくば、彼奴きゃつはただの鼠じゃねえ。巻物をくわえてドロドロとすっぽんからせり上がる溝鼠どぶねずみ
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
だけど所詮しょせんはどこへ行っても淋しい一人身なり。小屋が閉まると、私は又溝鼠どぶねずみのように部屋へ帰って来る。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
菓子をこしらえながら、指の間に残ってる捏粉ねりこを包丁で取ってる母親——前日河に泳いでるところを見かけた溝鼠どぶねずみ——柳の枝でこしらえたいと思っていたむち……。
溝鼠どぶねずみのやうな身体からだをして、両手を拡げて相手に抱きつかうとした。ビスマルクは慌てて逃げ出した。
その反対の、山裾やますそくぼに当る、石段の左の端に、べたりと附着くッついて、溝鼠どぶねずみ這上はいあがったように、ぼろをはだに、笠もかぶらず、一本杖いっぽんづえの細いのに、しがみつくようにすがった。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「へエ、この通り嚴重な締りで、溝鼠どぶねずみのもぐる穴もありません。今朝なども、店も切戸も裏口も、皆んな締つて居りました。私があけたんですから、間違ひはありません」
同時に耳の穴に突刺さるような超ソプラノが、一斉に「キャーッ」と湧起わきおこったと思うと、若い女の白い肉体が四ツ五ツ、揚板をメクられた溝鼠どぶねずみみたいに、奥の方へ逃込んで行った。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
掘りっぱなしのどぶの中を泳いで、溝鼠どぶねずみのように向うへい上ったら痛快だろう、と思っただけで、往来止めの制札の横の方に置き捨てられた大きな切石の一端に、腰を卸してしまう。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
翌朝あくるあさ幸ひ早起きの若い溝鼠どぶねずみが通りましたので、魚はこのことを頼んで見ました。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
「シッ! 畜生! 溝鼠どぶねずみ!」
秀才養子鑑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
……で悚気ぞっとしたが、じっると、鼠か、溝鼠どぶねずみか、降る雨に、あくどく濡れてっている。……時も時だし、や、小さな狢が天井へ、とうっかり饒舌しゃべって、きれいな鳥を蓮池へ飛ばしたのであった。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)