満々なみなみ)” の例文
旧字:滿々
彼女の顔いろに怖れをなして、かたくちへ満々なみなみいでやると、朱実は、眼をつむって、うつわと共に、白いおもてを仰向けにのみほした。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
菊池君は私にも叩頭おじぎをして、満々なみなみと酌を享けたが、此挙動やうすは何となく私に興を催させた。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
重太郎はお葉の酌で、満々なみなみがれたる洋盃を取った。が、生れてから今日こんにちまで酒と云うものの味を知らぬ彼は、熱い酒を飲むにえなかった。彼は一口飲んでたちませ返った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
摩擦を終って、はだを入れ、手桶とバケツとをずンぶり流れに浸して満々なみなみと水を汲み上げると、ぐいと両手に提げて、最初一丁が程は一気に小走りに急いで行く。こらえかねて下ろす。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
小杯ちいさくッて面倒くさいね」とそばにあッた湯呑ゆのみと取り替え、「満々なみなみ注いでおくれよ」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
満々なみなみと下さい。ありがたい、これは冷い。一気には舌が縮みますね。」
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「小式部さん、これを上げよう」と、初緑は金盥の一個ひとつを小式部がかたへ押しやり、一個ひとつに水を満々なみなみたたえて、「さア善さん、おつかいなさい。もうお湯がちっともないから、水ですよ」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
うしてるうちに、一人二人と他の水汲が集つて来たので、二人はまだ何か密々ひそひそ語り合つてゐたが、やが満々なみなみと水を汲んで担ぎ上げた。そして、すぐ二三軒先の権作が家へ行つて
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「冷い美しい水が、満々なみなみとありますよ。」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
西宮がした猪口に満々なみなみと受けて、吉里は考えている。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)