湧出わきい)” の例文
幸薄さいはひうすく暮さるるか、着たるものの見好げにもあらで、なほ書生なるべき姿なるは何にか身を寄せらるるならんなど、思は置所無く湧出わきいでて、胸も裂けぬべく覚ゆる時
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
れいなるかなこの石、てんあめふらんとするや、白雲はくうん油然ゆぜんとして孔々こう/\より湧出わきいたにみねする其おもむきは、恰度ちやうどまどつてはるかに自然しぜん大景たいけいながむるとすこしことならないのである。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
石の左右に、この松並木の中にも、形の丈の最もすぐれた松が二株あって、海に寄ったのは亭々ていていとして雲をしのぎ、町へ寄ったは拮蟠きっはんして、枝を低く、彼処かしこ湧出わきいづる清水にかざす。……
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
汽車のとどろきの下にも埋れず、何等か妨げ遮るものがあれば、音となく響きとなく、飜然ひらりと軽く体をわす、形のない、思いのままに勝手な湧出わきいずる、空を舞繞まいめぐる鼓に翼あるものらしい
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なほかつぬしある身のあやまりて仇名あだなもや立たばなど気遣きづかはるるに就けて、貫一は彼の入来いりくるに会へば、冷き汗の湧出わきいづるとともに、創所きずしよにはかうづき立ちて、唯異ただあやしくもおのれなる者の全くしびらさるるに似たるを
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)