渡守わたしもり)” の例文
事ともせず日々ひゞ加古川の渡守わたしもりしてまづしき中にも母に孝養怠らざりし其内老母は風の心地とてふしければ兵助は家業かげふやすみ母のかたはらをはなれず藥用も手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
渡守わたしもりの武助さんは横柄な人であつた。そして武助さんの、一番いけない点は、誰のいふことにでも反対をして見るといふ、しやうのない癖であつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
「先日も渡守わたしもりの孫の子供が舟のさおを差しそこねて落ちてしまったそうです。人がよく死ぬ水だそうでございます」
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ジュリアンは身を落して渡守わたしもりになり、癩者らいしゃを渡して、偉大なる空想の天に救い上げられるのである。
学生はしばらく沈思ちんしせり。その間に「年波としなみ」、「八重の潮路しおじ」、「渡守わたしもり」、「心なるらん」などの歌詞うたことばはきれぎれに打誦うちずんぜられき。かれはおのれの名歌を忘却ぼうきゃくしたるなり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おおいと呼べばおうと答えて渡守わたしもりが舟を出す位だが、東側はただもう山と畠で持切って、それから向うへは波の上一里半、麻生天王崎あそうてんのうさき大松おおまつも、女扇おんなおうぎの絵に子日ねのひの松位にしか見えない。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ただし、このさきわたしを一つ越さねばならぬで、渡守わたしもり咎立とがめだてをすると面倒じゃ、さあ、おぶされ、と言うて背中を向けたから、合羽かっぱまたぐ、足を向うへ取って、さる背負おんぶ、高く肩車に乗せたですな。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)