泫然げんぜん)” の例文
私は最後の甘干を食っても、まだ日が暮れないのを見て、泫然げんぜんとして思わず泣きました。東風君、僕は実になさけなくって泣いたよ
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
慨世のなげき、憂国の涙、二人あいして、泫然げんぜんとして泣きしが、すなわち酒をみてともちかい、死を以て自ら誓い、済南せいなんはしりてこれを守りぬ。景隆ははしりて済南にりぬ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
言已いいおわツテなみだ下ル。誠モマタ泫然げんぜんタリ。(中略)先生壮時ノ詩ハ既ニ刻スルモノ十余巻。しこうシテ晩年稿ヲ留メズ。僅ニ女史示ス所ノ者ヲ存スルノミ。しゅうシテ一巻トナシ題シテ『枕山先生遺稿』トイフ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
泫然げんぜんとして流るる涙を払ったこともないではなかったのです。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
弓之進は泫然げんぜんと泣いた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三年、重慶の大竹善慶里たいちくぜんけいりに至りたもう。このとしもしくは前年の事なるべし、帝金陵きんりょうの諸臣惨死さんしの事を聞きたまい、泫然げんぜんとして泣きて曰く、我罪を神明にたり、諸人皆我がためにするなりと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
せつに死し族をせらるゝの事、もと悲壮なり。ここを以て後の正学先生の墓をぎる者、愴然そうぜんとして感じ、泫然げんぜんとして泣かざるあたわず。すなわ祭弔さいちょう慷慨こうがいの詩、累篇るいへん積章せきしょうして甚だ多きを致す。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と言いながら眼をげて源三が眼の行くかたを見て、同じく禽の飛ぶのを見たお浪は、たちまちにそのこころさとって、えられなくなったか泫然げんぜんとして涙をおとした。そして源三が肩先かたさきとらえて
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)