いき)” の例文
旧字:
主婦かみさんかしげた大徳利の口を玻璃杯コップに受けて、茶色にいきの立つ酒をなみ/\と注いで貰ひ、立つて飲み乍ら、上目で丑松を眺める橇曳そりひきらしい下等な労働者もあつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
鱗硬くして鍮石しんちゅうを欺く、また馬様のくびもと頭をもたぐるに大力を出す、口いきを吹かば火焔を成し、そのさま地獄の兇鬼を見るに異ならず(エリス『古英国稗史賦品彙スペシメンス・オヴ・アーリー・イングリッシュ・メトリカル・ローマンセズ』二版、三巻三六六頁)
二つの焜炉に掛けた鍋の中の脂肪あぶらはふつふつと沸き立った。柔かそうに煮えたねぎや、色の変って来た鳥の肉からはさかんにいきが立って、うまそうな香気においを周囲にき散らした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『さあ、先生、つけませう。』と丑松は飯櫃めしびつを引取つて、いきの出るやつを盛り始めた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
うして寺の人と同じやうに早く食ふといふことは、近頃無いためし——朝は必ず生温なまあたゝかい飯に、煮詰つた汁ときまつて居たのが、其日にかぎつては、飯も焚きたてのいきの立つやつで、汁は又
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
最初にほふられた南部牛は、三人掛りで毛皮も殆んどぎ取られた。すこし離れてこの光景ありさまを眺めると、生々なまなまとした毛皮からは白いいきの立つのが見える。一方には竹箒たけぼうきで板の間の血を掃く男がある。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)