おけ)” の例文
家へ帰ると彼は中へは入らずに直ぐ裏へ廻って、流し元の水を受けるおけを埋めた水溜みずための縁の湿っぽい土の中へ金剛石を浅くいけた。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
重い馬小屋の門を開け、そりをバックさせて置場へ運び、二頭の馬をはずし、まぐさおけまでつれていかなければならなかった。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
これの水の中に沈澱させる装置をハナおけ、その前に垂れおけの中で攪拌かくはんするかいのような木をハナ起しというなど、いろいろの道具が具わっている。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
中でも、⦅おけかまわずのピョートル・サヴェーリエフ⦆というのを聞いて殊に驚いた。彼は思わず、『こいつは長ったらしいなあ!』と呟やいた。
そのあいだに、のってきた馬だけが、うまやの戸のあいているすきからはいりこんで、まぐさおけのほし草やからす麦を、がつがつしてたべていました。
かもし、また垣を作り𢌞して八つの入口を作り、入口毎に八つの物を置く臺を作り、その臺毎に酒のおけをおいて、その濃い酒をいつぱい入れて待つていらつしやい
お種はおけの縁へ頸窩ぼんのくぼのところを押付けて、しなびた乳房を温めながら、一時いっとき死んだように成っていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こう這入った上に、一週間もとめておいたら湯もよごれるはずだと感心してなおよくおけの中を見渡すと、左の隅にしつけられて苦沙弥先生が真赤まっかになってすくんでいる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところで、おけの中にはたんと喰べるほどの秣ははいっていない。間もなく槽の底が見え出す。
キャラコさん:10 馬と老人 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
馬はおけ手蔓てづるに口をひっ掛けながら、またその中へ顔を隠して馬草まぐさを食った。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
そうして、宮の婦人たちは彼らの前で、まだ花咲かぬ忍冬すいかずらを頭に巻いた鈿女うずめとなって、酒楽さかほがいうたうたいながら踊り始めた。数人の若者からなる楽人は、おけ土器かわらけを叩きつつ二絃にげんきんに調子を打った。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)