梵字ぼんじ)” の例文
其等それらが「長十山、三国の峰の松風吹きはらふ国土にまぢる松風の音」だの、上に梵字ぼんじを書いて「爰追福者為蛇虫之霊発菩提也ここについふくするものはだちゅうのれいぼだいをはっせんがためなり
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それは白晒布ざらしの地に、八幡大菩薩はちまんだいぼさつ摩利支天まりしてんの名号を書き、また、両の袖に、必勝の禁厭まじないという梵字ぼんじを、百人の針で細かに縫った襦袢じゅばんであった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊東温泉の日蓮宗の寺に天狗の詫証文わびしょうもんがあるが、これは梵字ぼんじに似ておる。その他にも天狗の書を秘蔵せるものがある。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
小団次の鋳掛松、菊次郎のお咲、梵字ぼんじの真五郎と佐五兵衛の二役は関三十郎が買って出て、刀屋宗次郎は訥升とつしょう三津五郎やまとやの芸者お組がことの外の人気だった。
また白紙の札に妙な梵字ぼんじような字で呪文が書いてはってある。鍋被の女には歯というものがないようだ。いずれも虫が食ってしまったらしい。口中こうちゅうは暗いうつろである。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
丈余の卒都婆そとばをストリと二つに切って、南無阿弥陀仏の梵字ぼんじを頂いた「我不愛身命」の残骸が下に、残る所の一面には、「但惜無上道」が冷々たる寂光を浴びて
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ところが、振向け方で、「うぐい」だけ黒く浮いて出ると、お経ではない、あの何とか、梵字ぼんじとかのようで、卵塔場の新墓にともれていそうに見えるから、だと解く。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
変わった梵字ぼんじとか申すような字はこれに似ておりますが読みにくい字で書かれましたものでも御参考になることが混じっているようでございますからお目にかけます。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
持って帰ると、一行は大いに喜んで、その豕をかの瓶のなかに封じ込めて、木の蓋をして、上に大きい梵字ぼんじを書いた。それが何のまじないであるかは、誰にもわからなかった。
その咒文は主として梵字ぼんじのようなものと、少数は漢字を当てて書かれており、これにフリガナがついているのである。一見したところダラニ風だが、私にはむろん意味がわからない。
鳩崎はとざきの海岸に近く寝地蔵といっていたのは、ただ梵字ぼんじを彫りつけた一つの石碑でありましたが、常には横にしてあって、雨乞いの時だけこれを立てて、石に田の泥を一面に塗ります。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
梵字ぼんじが書いてあって、二人にはわからなかったが、梵字だけで十分であった。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
身に着けている神仏のおふだやら手紙の反古ほごやら、また、岩国の叔母が、心をこめて縫って来た梵字ぼんじの肌着までを——すべて元来の自己以外の物は——みな投げて、潮へ流してしまった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この村の農民治右衛門が家に金屋神と題する一軸の巻物がある。本文は梵字ぼんじをもって記し末に江州文宮導人廻国時示之、伝燈大阿闍梨あじゃり重盛判、授者雪下正家伝之、慶長二年神无月吉日とある云々。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と云う慣例かんれいの挨拶をわして、其のむれに入る。一本の旗には「諸行無常しょぎょうむじょう」、一本には「是生滅法ぜしょうめっぽう」、一本には「皆滅々己かいめつめっき」、今一本には何とか書いてある。其上にはいずれも梵字ぼんじで何か書いてある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その旗というのは、白木綿に梵字ぼんじをしるし、下に
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)