杣道そまみち)” の例文
ほの暗いうちに出てれてから帰る。往来ゆききとも黒谷の谿流けいりゅうに沿った杣道そまみちをとるので、まだ途中で人にであったこともないと云った。
泥棒と若殿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その通りに行ってみると、上の杣道そまみちから山の果物を手籠てかごにして降りて来た女があった。女は振り仰いですぐ教えてくれた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ヒラリと身を翻すと、屏風岩から一足とびに降りて、あっと言う間もなく、小僧の影は杣道そまみちに消えました。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
湖畔亭から街道を五六町行った所に、山路やまじに向ってそれる細い杣道そまみちがあります。それを幾曲いくまがりして半里もたどると、何川の上流であるか、深い谷に出ます。谷に沿って危げな桟道さんどうが続きます。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
長岡の村から登って来る細い杣道そまみちが、二つにわかれて、一は頂上のほうへ向い、一は右の弁天谷のほうへ迂曲うきょくしてゆく。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
浅瀬も杣道そまみちも心得ぬいているかに見える。一同も腰まで飛沫しぶきに吹かれながら、対岸のふちから絶壁の下にとりついた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山浦丈太郎はお滝をかきのけて、箱根笹の藪へ——杣道そまみちを辿って飛込もうとするのです。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
と、山頂の杣道そまみちを、ひたむき急いだ。もちろん、天皇もお革穿かわばきの跣足はだしだったし、皇子も跣足のままだった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
狭い杣道そまみちで、左右から木の枝が伸びており、光辰の塗笠や肩などをびしびしと打った。彼は道をそれて、木立のあいだへ馬首を向け、すばしこく樹間を縫いながら、鞭を当て当て疾駆していった。
若き日の摂津守 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
見ていると、そこにも杣道そまみちがあるらしく、馬子の姿は、たちまち見えなくなった。弁円は、歯がみをして
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
樹林と灌木かんぼくにおおわれた山また山も墨一色だし、道も細い杣道そまみちが一すじ縫うているに過ぎないからだ。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また安濃谷あのだにへ行けば、桑名や四日市から来る道へ。——杣道そまみちや間道が、三つぐらいあるだろう。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
杣道そまみちの草むらに、渡辺天蔵は仰向けに倒れていた。——が、三平が踏みまたがって、その胸いたへ、刃の先を向けたせつな、天蔵はふいに起って、敵の諸足もろあしへ両手で抱きついて行った。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
細い杣道そまみちにはわざと大木をり仆してあり、枯れ柴を踏めば、おとし穴ができている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
杣道そまみちですが、あれを、左へ降りると、天神山の西、池ノ原へ出まする」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
要路の地勢を考えて、まず柵をい、関所を設け、丸木小屋の見張所を建て、望楼を組上げなどして、街道はおろか、峰の杣道そまみち、谷間の細道まで、獣一匹通さぬばかり監視は厳重をきわめていた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やっといただきに近づいた。と見る、疎林そりんの中の杣道そまみちに、青い巨大な平石がある。武松は笠をぬいで仰向けに転がった。寝るつもりでもなかったが酔余すいよこころよさ、いつかすっかり寝こんでしまったものである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
崖の杣道そまみちを見上げて、城太郎はがさがさとじ登って行った。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「では……」と、転ぶようにふたりは細い杣道そまみちじてゆく。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)