木間このま)” の例文
しばらくすると川向かわむこうの堤の上を二三人話しながら通るものがある、川柳のかげで姿はく見えぬが、帽子と洋傘こうもりとが折り折り木間このまから隠見する。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
花の木間このま、夕日花やかに移ろひて、陵王りようわう(扮装せる当年十四歳の顕家)のかがやき出でたるは、えもいはず、おもしろし。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
の末に、臨海の人が山に入ってかりをしていた。彼は木間このまに粗末の小屋を作って、そこに寝泊まりしていると、ある夜ひとりの男がたずねて来た。
遠近おちこち木間このま隠れに立つ山茶花さざんか一本ひともとは、枝一杯に花を持ッてはいれど、㷀々けいけいとして友欲し気に見える。もみじは既に紅葉したのも有り、まだしないのも有る。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
敵の陣営——急出来の小屋あたりに、焚きつらねてあった篝火の光が、木間このまから隠見して見えた。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
矢来のごとき木間このま々々には切倒したと覚しき同じほどの材木が積重なって、よこたわって、深森のうちおのずからこみちを造るその上へ、一列になって、一ツ去れば、また一ツ、前なるが隠るれば、後なるが顕れて
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蘭軒は此中秋に新に移植した木犀の木間このまの月を賞したのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ゆく春をひとりしづけき思かな花の木間このまあはき富士見ゆ
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
見上げたる高き木間このま
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
それから山内の森の中へ来ると、月が木間このまから蒼然そうぜんたる光をもらして一段の趣を加えていたが、母は我々より五歩いつあしばかり先を歩るいていました。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
彼は木間このまや岩蔭に潜んで、絶えず其後そのごの模様を窺っていると、安行も死んだ、お杉も死んだ、𤢖わろ一人いちにんも死んだ。その屍体はいずれも里へ運び去られたのである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)