擬宝珠ぎぼし)” の例文
旧字:擬寶珠
双欄そうらんを通して、欄のたもとには、大きな擬宝珠ぎぼしの太柱を建てた唐橋式の偉観いかんをもって、新しき天下の大道——また文化の動脈となっていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
江戸風な橋の欄干の上に青銅からかね擬宝珠ぎぼしがあり、古い魚河岸があり、桟橋があり、近くに鰹節かつおぶし問屋、蒲鉾かまぼこ屋などが軒を並べていて
食堂 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
遠くあくがれて慕つて来た東海の小蓬莱が、擬宝珠ぎぼし形をした頂きをもつて、さながら浮び出したかのやうにその前にあらはれて来たからである。
旅から帰つて (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
濡れた帽子を階段擬宝珠ぎぼしに預けて、瀬多の橋に夕暮れた一人旅という姿で、茫然ぼうぜんとしてしばらくたたずむ。……
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
僕等はちょうど京橋きょうばし擬宝珠ぎぼしの前にたたずんでいた。人気ひとけのない夜更よふけの大根河岸だいこんがしには雪のつもった枯れ柳が一株、黒ぐろとよどんだ掘割りの水へ枝を垂らしているばかりだった。
彼 第二 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
むしろ神々こうごうしい姿である。と、まもなく両国橋の、橋詰めの擬宝珠ぎぼしの前まで行った。そうしてそれを渡りかけた時に、逞しい中年の五人の武士が、追いついてすぐ囲繞した。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
擬宝珠ぎぼし岳、西岳などの孤立峰を作って、それが山名の八ヶ岳の数を、それぞれ満たしているが、富士の蓮華八葉の如き、浅い切り込でなく、深刻に切断されたところの八ヶ岳である。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
朱塗りの手摺てすり擬宝珠ぎぼしをつけた、橋みたいな階段をあがると、かたぎの女が外ではくフェルト草履ぞうりをぱたぱた言わせてマワシの客の部屋へ急ぐお女郎の姿が見えた。俺は興ざめのおもいだった。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
四面四方に築墻ついぢをつき、三方に門を立て、東西南北に池を掘り、島を築き、松杉を植ゑ、島より陸地へ反橋そりはしをかけ、勾欄こうらん擬宝珠ぎぼしを磨き、誠に結構世に越えたり、十二間の遠侍とほざむらひ、九間の渡廊、釣殿
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
欄干の支柱にからかねの擬宝珠ぎぼしのついた古ぼけた橋のたもとから、当時「青い戸袋」と呼びなされた屋敷長屋のペンキ塗りの窓の下の方へかけて、いっぱいの人で
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いわんや待望の雨となると、長屋近間の茗荷畠みょうがばたけや、水車なんぞでは気分が出ないとまだむかしのままだった番町へのして清水谷しみずだにへ入り擬宝珠ぎぼしのついた弁慶橋で、一振柳を胸にたぐって
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
例へばつい半年ほど前には、石の擬宝珠ぎぼしのあつた京橋も、このごろでは、西洋風の橋に変つてゐる。そのために、東京の印象といふやうなものが、多少は話せないわけでもない。
東京に生れて (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
町人百姓までこの行幸のために尽力守衛せよというような張り紙を三条大橋の擬宝珠ぎぼしに張りつけたものがあって、役所の門前で早速さっそくその張り紙は焼き捨てられたという。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)