提灯かんばん)” の例文
旧字:提燈
千住の宿場遊廓しゅくばぐるわから飛んで来た帰りかご提灯かんばんらしいのが、どう道を勘ちがいしたか、刑場の原へぶらぶら迷いこんで来る様子——
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、二台、月に提灯かんばんあかり黄色に、広場ひろっぱの端へ駈込かけこむと……石高路いしたかみちをがたがたしながら、板塀の小路、土塀の辻、径路ちかみちを縫うと見えて、寂しい処幾曲り。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さんの落語が半ばに至った時、春の日は暮懸っての命が長く、水を隔てゝ御蔵橋を駈下りる車にまだ提灯かんばんいて居なかったが、座敷にははや燭台の花が咲いて
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
こんどは間違いッ子なしだゼ——提灯かんばんに、赤い字で、つた家と書いてあらあ——かご屋はぐるなんだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
こんどは提灯かんばんかりの通勤かよいだったので、おなじ芸妓屋町に住居をもった。
人力車じんりき提灯かんばんけて客待つとならぶ河辺に蛍飛びいづ
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
と、のぞき出した半白半黒、それをおばこにったのが、ばらばらに乱れて、細長くしなびた、まばら歯の婆さん——その顔が提灯かんばんの灯に、おぼろに照されて、ばけ物じみている。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
敷石も、溝板も、何よりはじまるともなしに白くなって、煙草たばこ屋の店のともしび、おでんの行燈あんどう、車夫の提灯かんばん、いやしくもあかりのあるものに、一しきり一しきり、綿のちぎれがむらがって
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「待ちねえ。駕といやあ、さっきそこの鳥居側とりいわきに、提灯かんばんが二つ見えていた筈だが……」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玄関へ下立つと今日周章あわてゝ穿ちがえて来たものか、銭湯行の下駄が勿体らしく揃えてあるので、これにも狼狽うろたえて戸口へ出て、柳という字を赤く太く提灯かんばんへ書いた車へ乗ろうとして
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
芝居ずきな方で、酔っぱらった遊びがえりの真夜中に、あなた、やっぱり芝居ずきの俥夫くるまやと話がはずむと、壱岐殿坂の真中まんなかあたりで、俥夫わかいしゅは吹消した提灯かんばんを、鼠に踏まえて、真鍮しんちゅう煙管きせるを鉄扇で
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)