手斧ておの)” の例文
国手こくしゅと立花画師との他は、皆人足で、食糧を持つ他には、道開き或いは熊けの為に、手斧ておののこぎりかまなどを持っているのであった。
壁の眼の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
そのときはもう、うらにまわった透明人間が、物置ものおきからさがしだした手斧ておので、ガンガン、台所だいどころのドアをたたきこわしてるところだった。
それは一丁のなまくらな手斧ておのを、室内のうす暗い片隅から拾い上げたのだ。しかもそのにぶい刃先には、なんと赤黒い血がこびりついていた。
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
熊城は最初音響を確かめてから、それらしい部分に手斧ておのを振って、羽目パネルに叩きつけると、はたしてそこからは、無数の絃が鳴り騒ぐような音が起った。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
大工がしきりにかんな手斧ておのの音を立てているが、清三は気分のいい夕方などには、てくてく出かけて行って、ぽつねんとして立ってそれを見ていることがある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
それでもつてち殺してある、かんなのみや鋸や、または手斧ておの曲尺まがりかねすみ縄や、すべての職業道具しようばいどうぐ受け出して、明日からでも立派に仕事場へ出て、一人の母にも安心させ
もつれ糸 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
造兵へ出るたつさんが肌を抜いで酒をんでいると、御酒を呑んでてよと御母さんに話す。大工の源坊げんぼう手斧ておのいでいると、何か磨いでてよと御祖母さんに知らせる。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
頭には、上から落ちてくる岩をふせぐための弾力のある帽子をしっかりかぶり、手にはするどいかぎのついた小さい手斧ておのと、強い燭光しょっこう手提灯てさげとうをもち、腰には長い綱をさげていた。
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と対馬守、手斧ておのや木くずや、散らかっている道具をまたいで、小屋へはいってきた。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
伊達藩宿老の家格も要らない、自分には弓と手斧ておのと山刀と、寝袋があれば充分だ。
伊勢大神宮の御用林もその中にございます。それを、高さ二十間もある大木を、この辺の樵夫きこり手斧ておので伐り倒しますが、そのわざの鮮やかさは、これも他国の者が舌を巻いておりまする。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
藤作は薪割りの手斧ておのを振りあげながらいった。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
武蔵は、斧や手斧ておので、面皮をとる。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこへ、手斧ておのが頭上の高さに回転かいてんしながら、ホールに飛びこんできた。大乱闘だいらんとうとなった。
そのちょっと引っ張ると解けるひっとき結びの短い一端へ、この細紐をこのとおりに結びつけて、さて旋回機のウィンチに捲きついているロープを、そうだ、あの手斧ておので叩ッ切る。
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
そして錠を壊すのであろう、手斧ておのの響きがするどく耳をうった、「……明真か」俊恵はそう叫んで扉口へすり寄った、錠の落ちる音がし、扉が開いた、かれは思わず眼をおおった、扉が開くといきなり
荒法師 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
驚きのあまりそばにありあわせた手斧ておのを振るって看守の頭へ打ち下ろす。
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)