手古てこ)” の例文
それに対して署長は苦笑にがわらいをしながら、イヤどうも万事あの調子なので、訊問じんもん手古てこずったがと前置きして、次のように説明した。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
白いひげを長く延ばした爺さんであつたが、なかなか重いと見え、人夫は白い息をふうふうと吐いて少し手古てこずり、すると、人々の間から
釜ヶ崎 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
少年少女がこんな性質を無暗むやみに発揮してくれると、教育家は月給や首に関係し、父母は面目や財産に関係し、当局は取締に手古てこずるからであろう。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
酔っ払っちゃあどこの家へも這入はいりこんで、宿を貸せの、小費こづかいを出せの、文句をいえば、暴れ廻るし、いやもう手古てこずり抜いたものとみえまさ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すさまじい悖反はいはんがある、それが為に我輩の悩まされたると手古てこずらされた事は少々なものでなかった。
生前身後の事 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼なれば、警察が手古てこずった難事件をやすやすと解決したという話を幾つも聞いている。ことに人間ひょうのような怪犯人には、明智こそ似つかわしいのではあるまいか。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
などと、感傷にひたりきつて、繼母のおとりと下女のお今を手古てこずらせ、末娘のお露は、打ち續く怪奇な事件と、それにともなふ人の出入りにおびえて、たゞおど/\するばかりです。
「あいつ、俺の手古てこにはおへんわ。近頃は婦人参政権の運動を起すなど言うているぜ」
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
「時にこんな物を加賀様のお手古てこの人に貰ったから、おふくろにやってくんねえ」
半七捕物帳:22 筆屋の娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
神さまでも手古てこずるくらい纏まらない物体だ。しかし自分だけがどうあっても纏まらなく出来上ってるから、他人ひとも自分同様しまりのない人間に違ないと早合点はやがてんをしているのかも知れない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
滝本は、仕末の悪い酔つ払ひをあしらひ兼ねるように手古てこずつた。
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
城太郎をれていると、城太郎はよく甘える。ねだったり、だだをこねたり、わがままをいって手古てこずらせたり——
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おんなたちを手古てこずらせていたが、その寒巌枯骨ともいえるような細ッこい老躯の中には、なかなかかない気性がひそんでいるらしく、さっき白紙の返書をこしたり、あちらの別室で
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生命いのちかぎり、悪いことして、手古てこずらしてみせてやる
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)