戸迷とまど)” の例文
秀調の針妙水無瀬しんみょうみなせは小町の難義を救ふ役なるが、作者がえたいの知れぬものを拵へしため、やっこの小万が戸迷とまどひをしたといふ形あり。
一生のうち終り初物で恟りして戸迷とまどいしあがッたんだろう、ざまア見あがれと直ぐ外の男へ口をかけるというように淡泊になって参りました。
飴屋が名代の涎掛よだれかけを新しく見ながら、清葉は若いと一所に、お染久松がちょっと戸迷とまどいをしたという姿で、火の番の羽目を出て、も一度仲通へ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いままでは、なぞのようなことばかりで、すっかり戸迷とまどったが、そうとわかると、すこし楽な気持になってきた。
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
この時いずくよりか二ひきありい出して一疋は女のひざの上にのぼる。おそらくは戸迷とまどいをしたものであろう。上がり詰めた上には獲物えものもなくてくだみちをすら失うた。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一瞬間その理由がハッキリ分らなくて、刑事は戸迷とまどいをした様に目をパチクリやった。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
途中で煙が戸迷とまどいをして咽喉のどの出口へ引きかかる。先生は煙管きせるを握ってごほんごほんとむせび返る。「先日来た時は朗読会で船頭になって女学生に笑われたといっていたよ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やどでもついこの間、窓を開けて寝られるから涼しくっていてって、此室ここふせりましてね、夜中に戸迷とまどいをして、それは貴下あなた、方々へ打附ぶつかりなんかして、飛んだ可笑おかしかったことがござんすの。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「寒月でも、水月でも知らないんだよ——大嫌いだわ、糸瓜へちま戸迷とまどいをしたような顔をして」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「朝から戸迷とまどいをなすっては、泊ったら貴下、どうして、」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)