憑物つきもの)” の例文
憑物つきもののある病人に百万遍の景物じゃ、いやもう泣きたくなりまする。はははは、泣くよりわらいとはこの事で、何に就けてもお客様に御迷惑な。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
露骨に云えばたぶらかされていたのだ。だが今は正気となった。憑物つきものは離れてしまった。ああそれにしても纐纈こうけつ布は、なんと俺には宿命であったろう
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「よく、さう大變の憑物つきものが落ちないんだね。三日に一度くらゐづつは、そいつにおびやかされるぜ」
由井の家の娘には何かの憑物つきものがしているか、さもなければ由井の家に何か祟っているのであろうという噂が、それからそれへと拡がって行くので、親たちもそれを気に病んで
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わたくしが何と申上げる言葉もないままでおりますと、松王様はなおもつづけて、お口疾くちどにあとからあとからあふれるように、さながら憑物つきもののついた人のようにお話しかけになります。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
ああ、おそろしい。憑物つきものや物のではなく、たたりをなさる御神であらせられるのに、どうして私風情ふぜいのものがこれを調伏申しあげることができようか。もしこの手足がなかったら、きっと命を
茶店の婆さんはこの邸に憑物つきものの——ええ、ただ聞きましたばかりでも、成程、浮ばれそうもない、わかい仏たちの回向えこうも頼む。ついては貴下あなたのお話も出ましてな。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたくしが何と申上げる言葉もないままでをりますと、松王様はなおもつづけて、お口疾くちどにあとからあとからあふれるやうに、さながら憑物つきもののついた人のやうにお話しかけになります。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
娘に何かの憑物つきものがしてゐるならば、その形は見えずともその影があり/\と映るはずである。その娘に狐が憑いてゐるならば、狐の影がうつるに相違ない。鬼が憑いてゐるならば鬼が映る。
「もう少し落着いて話せ。お前の樣子はまるで三千兩の憑物つきものがしてゐるやうだぞ」
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
おなじように、憑物つきものがして、魔に使われているようで、手もつけられず、親たちがうろうろしますの。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「もう少し落着いて話せ、お前の様子はまるで三千両の憑物つきものがして居る様だぞ」
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
重荷をおろしたような、憑物つきものに離れたような心持で、平吉は自分の家へ帰った。しかもかれはまだ落ちついてはいられなかった。かれはすぐにまた飛び出して、近所の時借りなどを返してあるいた。
放し鰻 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
狐狸や、いや、あの、えて飛ぶ処は、ふくろ憑物つきものがしよった、と皆気違きちがいにしなさいます。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「何んだ、相變らず大變な憑物つきものがしたやうぢやないか」
憑物つきものでも放れて行ったように思うんですが、こりゃ何なんでしょう、いずれその事に就いてでしょうよ、」とかすかにえみを含んで、神月は可愧はずかしげに上人が白きひげあるなつめのごときおもてを見た。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お豊は憑物つきものを振り払うように、身を顫わせました。
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「何か憑物つきものでもしたというのか、暮し向きの屈託とでもいう事か。」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)