悠揚ゆうよう)” の例文
人に聴かせるならもっと出て来てもよいに、自分はこんな谷陰の蘆の中に隠れて、しかも悠揚ゆうようとした挙動で澄まし込んで啼いている。
その日の話し手桜井作楽さくらいさくらは、近頃では珍らしい和服姿——しかも十徳を着て頤髥を生やした、異様な風体ふうていで、いとも悠揚ゆうようと演壇に起ったのです。
大男は不器用に和服の羽織はかまをはき、あたりを圧するほどの悠揚ゆうようさでギゴチなくそこにすわると軽く頭を下げた。
眼を開いたまま眼をさまして、一ところにかたまっていた二ひきが悠揚ゆうようと連れになったり、離れたりして遊弋ゆうよくし出す。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
悠揚ゆうようせまらぬ楽天的な大人たいじんの風格をもちながら中々の毒舌家であるステファーノヴィチといふ会計課長だの
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
雪に足跡の残ることを心づいていたればこそ、騒がずに悠揚ゆうようと構えて、追いかけようともしなかったのです。
悠揚ゆうよう迫らざるもの。それこそこの退き口の大事であるばかりでなく、次の軍への備えであるといった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三四郎はいまいましくなった。そういう時は広田さんにかぎる。三十分ほど先生と相対していると心持ちが悠揚ゆうようになる。女の一人や二人どうなってもかまわないと思う。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
同志は悠揚ゆうようとして死についた。俺は死にぞこないのおもいを心から消すことができなかった。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
踊りに伴って鳴る楽器が春にふさわしい閑雅な音をただよわす。胡弓こきゅう、長鼓、太胡、笛、しょうの五器がそれぞれの響きを悠揚ゆうような律に調和させて大同江の流れの上へ、響いて行くのである。
淡紫裳 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
そのあやしさ、その悠揚ゆうようさ、その鋭尖えいせんさを、目に見、耳に知り、五体に感知するのは今が最初で、しかも、相当の修業者であるとすれば、相手の一身に、みじん、隙も退け目もないのは
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それに、何よりもその悠揚ゆうようとした話しぶりが彼には堪え得られないものに思われた。彼には、すべての真理というものがこんな風に流暢に語り得らるべき性質のものでないようにさえ思われた。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
悠揚ゆうよう迫らざる演説の抑揚や、ゼスチュアまで、ことごとく完備した型を持っていたが、しかし、それにもかかわらず、どこかに穴のあいたような気楽なところがあり、そこに自ら巧まざる親和力が
片手の水差みずさしに汲んで、桔梗にそそいで、胸はだかりにげたところは、腹まで毛だらけだったが、とこへ据えて、円い手で、枝ぶりをちょっとめた形は、悠揚ゆうようとして、そして軽い手際てぎわで、きちんときまった。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
悠揚ゆうようせまらず、橋をわたり、町の方へ出て行った。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
ちゃんと打合せが出来ていたものと見え、すっかり着飾ったベッシェール夫人は芝居の揚幕の出かなんぞのように悠揚ゆうようと壁にってある庭の小門を開けて現われた。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そして悠揚ゆうようとそこの泉水で面を洗うと、りりしくもくっきりとした美丈夫の姿と変わったのです。
今の東京にいる者に悠揚ゆうような絵ができるものか。もっとも絵にもかぎるまいけれども。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
浪人者は自分の家でも入るような悠揚ゆうようさで平次の向うへ、どかりと腰を据えました。煮締めたような畳、煎餅蒲団せんべいぶとん行灯あんどんの灯が、トロトロと居眠りして、汚くはあるが、親しみ深い庶民的な趣です。
玄徳は、たえず微笑をもって、悠揚ゆうようと、座につきながら
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを悠揚ゆうようとして近づぎながら、えり首つかんでぐいと起こすと、右門は静かにいいました。
主人岩太郎は悠揚ゆうようと毒を言いながら、杯を受けております。
銭形平次捕物控:245 春宵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
しかりすてると、伝六がやきもきするのもまんざら無理はあるまいと思われるのに、右門はいたって悠揚ゆうようと春雨の優雅を愛しながら、ご番所のほうへ歩を運ばせてまいりました。
右門は災難に会った一家の者に悠揚ゆうようとして黙礼を残しながら立ち去ると、門を出たそこの路地口のところで、いったとおりあごひげをまさぐりまさぐり、伝六のかえりを待ちうけました。
だが、右門はいたって悠揚ゆうようとしたものでした。