徴候ちょうこう)” の例文
「しかし不安や緊張は幾分解けたようだ。飛行機に乗る時、気分がへんになりやしないかと思ったんだが、別にその徴候ちょうこうはなかったね」
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
神経衰弱になったり、夢中遊行を起したりするのは、そんな風に体質や性格が変化して行く、過渡時代の徴候ちょうこうだという説もあるくらいですが……
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかしこころ苦痛くつうにてかれかおいんせられた緻密ちみつ徴候ちょうこうは、一けんして智慧ちえありそうな、教育きょういくありそうなふうおもわしめた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
彼のこの病的な素質は、一体全体どこから来たものであるか、彼自身にも不明であったが、その徴候ちょうこうは、既にすでに、彼の幼年時代に発見することが出来た。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この頃から伊丹城中には、惰気だきようやく満ち、士気またみだれ始めたかと見らるる徴候ちょうこうがあらわれ出して来た。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
物に熱中した時の徴候ちょうこうのように、不思議にも咳は出てこなかった。たまさかに木の葉の落ちる音と、遠い川音とのほかには、純次のいびきがいぎたなく聞こえるばかりだった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
もう一方絹子さんは何うかというと、一向変った徴候ちょうこうを示さない。その後隆鼻術と美眼術は悉皆すっかり諦めをつけて、天然自然の目鼻でお嫁に行くことに納得なっとくしたようだが、歯丈け改造した。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
介抱かいほうされてようやく息をふき返しはしたが、もはや、明らかな狂気の徴候ちょうこうを見せて、あらぬ譫言うわごとをしゃべり出した。その言葉も、波斯語ではなくて、みんな埃及語だったということである。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
暗号らしいものの隠されている徴候ちょうこうは、一向発見されなかったのである。
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なにぶん、憲兵隊では、はじめっからこれを思想問題だと見て、重大視しているようだし、君らの行動に多少でもそういう徴候ちょうこうがあれば、自分として、それをかくして置くわけにはいかんのだからね。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
いよいよ彼女かのじょは現実を遊離する徴候ちょうこうを歴然と示して来た。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
最初に視線が合ったとき、背筋を走りぬけた戦慄せんりつは、あれが私のおびえの最初の徴候ちょうこうではなかったか。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
なぜおれは俺を俺と思うのか? ほかの者を俺と思うてもさしつかえなかろうに。俺とはいったいなんだ? こう考えはじめるのが、この病のいちばん悪い徴候ちょうこうじゃ。どうじゃ。当たりましたろうがの。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「一体君は神経衰弱の徴候ちょうこうを知っているのかい?」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
襲撃せらるる徴候ちょうこう見えしによる
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
正三君はとにかくよい徴候ちょうこうだと考えた。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「瞬きは神経衰弱の徴候ちょうこうさ」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)