なか)” の例文
松田氏の精確なる記性と明快なる論断とがなかつたなら、わたくしは或は一堆の故紙に性命をき入るゝことを得なかつたかも知れない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
グアルテロッティもイムポルトゥーニも既に榮えき、もし彼等に新なる隣人となりびとなかりせば、ボルゴは今愈〻よ靜なりしならむ 一三三—一三五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
国の進動する所以ゆゑんの者、此に存す、国民若し仰ぎて中心とする英雄なかつせば、其文明は到底唯物的の魔界に陥らざるを得ず。
この後の成り行きは寒心すべきものありといえども、兎に角、この風とこの雨となかりせば、物は火炎の中に灰燼かいじんし、人は焦熱の中に死すべかりしなり。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
赤誠せきせいに富みまするも、教育事業の資本家たる諸君の助力なかりせば、あたかもこれ糧食なくして戦陣に臨むと一般で、如何いかなる勇将猛卒ゆうしょうもうそつくその功を奏する事ができざる如く
国民教育の複本位 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
初めてさとる我身の罪、あゝ我れなかりせば、御邊も可惜あたら武士を捨てじ、横笛も亦世を早うせじ、とても叶はぬ戀とは知らで、道ならぬ手段てだてを用ひても望みを貫かんと務めし愚さよ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
かの大いなる僧(禍ひ彼にあれ)なかつせばわれこの思ひの成れるを疑はず、されば請ふ事の次第と濫觴おこりとをきけ 七〇—七二
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
信条は異論に対し、他派に対し、同一普通の信仰を有する一隊が敵と味方と朋友とを区別せんが為めの旌旗せいきなり。是れなかつせば以て精神界に出でゝ統制一致の運動をす能はず。
信仰個条なかるべからず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
もしこの事なかりせば、今汝の過行く天は、そのを技藝に結ばずして破壞にむすぶにいたるべし 一〇六—一〇八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)