当時そのかみ)” の例文
旧字:當時
恋々れんれんたるわれを、つれなく見捨て去る当時そのかみに未練があればあるほど、人も犬も草も木もめちゃくちゃである。孤堂先生は胡麻塩ごましおまじりのひげをぐいと引いた
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
当麻路に墓を造りました当時そのかみ、石をはこぶ若い衆にのり移ったたまが、あの長歌をうとうた、と申すのが伝え。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
ふねよりふねわたりて、其祝意そのしゆくいをうけらるゝは、当時そのかみ源廷尉げんていゐ宛然えんぜんなり、にくうごきて横川氏よこかわしとも千島ちしまかばやとまでくるひたり、ふね大尉たいゐ萬歳ばんざい歓呼くわんこのうちにいかりげて
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
古き五年は夢である。ただしたたる絵筆の勢に、うやむやを貫いてかっと染めつけられた昔の夢は、深く記憶の底にとおって、当時そのかみを裏返す折々にさえあざやかに煮染にじんで見える。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)