引抱ひんだ)” の例文
大船、おおふなと申す……驚破すわや乗越す、京へ上るわ、とあわただしゅう帯を直し、棚の包を引抱ひんだいて、洋傘こうもり取るが据眼すえまなこ、きょろついて戸を出ました。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何故って、ここはお前……お前が何時かこむらを返してしずみ懸った時に、おらがその柔かい真白な体を引抱ひんだいてたすけ揚げたとこだ。
片男波 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
他は盲縞めくらじま股引ももひき腹掛はらがけに、唐桟とうざん半纏はんてん着て、茶ヅックの深靴ふかぐつ穿うがち、衿巻の頬冠ほほかぶり鳥撃帽子とりうちぼうしを頂きて、六角に削成けずりなしたる檳榔子びんろうじの逞きステッキを引抱ひんだき、いづれも身材みのたけ貫一よりは低けれど
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「どこかへ明日まで封じておきな。」「あいあい親方請取ろうか。」「そら渡すぞ。」と屠犬児が片手で突けば、飛んで来る、三吉を引抱ひんだきて、壮佼わかもの闇夜やみに消えぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と横ざまにあびせかけると、訓導は不意打ながら、さしったりで、ステッキを小脇に引抱ひんだ
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
学生が一人、のっそり立ち、洋書を五六冊引抱ひんだいて突立つッたったものである。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
膝掛ひざかけ引抱ひんだいて、せめてそれにでもあたたまりたそうな車夫は、値がきまってこれから乗ろうとする酔客よっぱらいが、ちょっと一服で、提灯ちょうちんの灯で吸うのを待つ、氷のごとく堅くなって、催促がましく脚と脚を
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)