幼顔おさながお)” の例文
旧字:幼顏
少し顔を反向そむけている娘をみて、鷲尾は思わすジロジロとみつめた。福々しい幼顔おさながおはどこにも残って居らず、骨太にすくすくとのびた娘だった。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
「大きゅうなったなあ。いや、そなたの乙女ざかりを知らぬゆえ、見違えるばかりだが、こうしておる間に、そぞろそなたが、幼顔おさながおに返って見ゆる」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「節ちゃんか。どうも見違えるほど大きくなりましたね。幼顔おさながおわずかに残っているぐらいのもので——」と鈴木の兄に言われて、節子はすこし顔をあかめた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私のかお何処どこ幼顔おさながおて居ると云うそのうちには、私に乳をましてれた仲仕なかし内儀かみさんもあれば、又今度こんど兄の供をして中津から来て居る武八ぶはちと云うごく質朴な田舎男いなかおとこ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「見忘れはしませぬ幼顔おさながお、お前の親御孝藏殿によく似ておいでだよ、そうして大層立派におなりだねえ、お前がお父様とっさまの跡を継いで、今でもお父様はお存生ぞんしょうでいらッしゃるかえ」
見ようじゃないか。幼顔おさながおそのままだから、君だって見れば思い出すに違いないよ
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
幼顔おさながおは覚えみて忘れざりけむ、一目見るよりわれをば認めつ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……だが、ようぞござった、幼顔おさながおはお互いに幾歳いくつになっても忘れぬもの、なつかしや……ご無事でおわしたの
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
和助の方にはまだ幼顔おさながおが残っていることのと、兄弟の子供のうわさが出た。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今の親鸞のなごやかな顔は、十八公麿まつまろと呼ばれていたころの幼顔おさながおにそっくりである。四十を超えてからの親鸞は、いつの間にか幼少の顔のほうへ近くなっていたものと見える。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、その幼顔おさながおを振っていた。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)