幻滅げんめつ)” の例文
彼はその料理屋へ尋ねて行き、いまだに白粉おしろいの厚い彼女と一時間ばかり話をした。が、彼女の空々そら/″\しいお世辞に幻滅げんめつを感ぜずにはゐられなかつた。
貝殻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
幻滅げんめつの悲哀を抱いて、火に追われた二人の悪玉は、足に力もなく走りだした。大樹があるので焼け止まったどてがある。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青年との散歩が、悲しい幻滅げんめつに終ってから、避暑地生活は、美奈子みなこに取って、喰わねばならぬ苦い苦いにらになった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかし彼女かのじょはそれまで私が心の中で育てていたツルとはたいそうちがっていて、普通ふつうのおろかな虚栄心きょえいしんの強い女であることがわかり、ひどい幻滅げんめつを味わったのは
花をうめる (新字新仮名) / 新美南吉(著)
いかに貞淑に良人おっとに仕え、いかによく彼を愛し理解していたかということは、後年彼が多少日本に幻滅げんめつして、在外の友人に日本の悪評を書いた時さえ、日本の女性に対してだけは
うるわしい天上の夢から、汚ないどぶの中へ叩き落されたような幻滅げんめつである。
彼の熱情を失ったのは全然三重子の責任である。少くとも幻滅げんめつの結果である。決して倦怠けんたいの結果などではない。……
早春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お前が夫人の言葉を信ずれば、信ずるほど、夫人のお前に与うるものは、幻滅げんめつと侮辱との外には、何もないのだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
つぎの朝いってさがしあててみると、花は土のしめりですこしもしおれずしかし明るい朝の光の中ではやや色あせてみえ私はそれと知らず幻滅げんめつを覚えたのであった。
花をうめる (新字新仮名) / 新美南吉(著)
燕作えんさくでなくても、ひとたびここに立って、一ちょう幻滅げんめつをはかなみ、本能寺変ほんのうじへんいらいの、天下の狂乱をながめる者は、だれか、惟任日向守これとうひゅうがのかみ大逆たいぎゃくをにくまずにいられようか。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
爾来じらい「夏の女の姿」は不幸にも僕には惨憺さんたんたる幻滅げんめつの象徴になつてゐる。日盛りの銀座の美人などは如何いか嬋娟窈窕せんけんえうてうとしてゐても、うつかり敬意を表するものではない。
鷺と鴛鴦 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
幻滅げんめつの悲しみをいだいて、ぼうぜんと気ぬけのした伊那丸いなまるは、ややあってわれにかえった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それは誰でも外国人はいつか一度は幻滅げんめつするね。ヘルンでも晩年はそうだったんだろう。」
彼 第二 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
悪貨の濫発らんぱつや、官閥の腐敗や、物価高の生活苦や、宗教への幻滅げんめつや、男女間の無軌道むきどうや、芸術文化などの自殺的服毒や、等々々の、あらゆる構成悪を、りわけてみても、その原因は
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
城太郎が今めたような苦い幻滅げんめつは、毎日経験することであって、ふとれちがうたもとにも、もしや? と思い、後ろ姿が似ていると見ては前へ駈け抜けて振返り、町の二階家にチラと見た人影にも
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊那丸よ——おまえのいまのぞんでいることは無益むえきであるぞ、徒労とろうであるぞ、幻滅げんめつをもとめているにすぎないぞよ、そして、そんなことをしているまに、留守るす小太郎山こたろうざんとりでは、徳川家康とくがわいえやすにおそわれて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)