巨刹おおでら)” の例文
つれの夫人がちょっと道寄りをしたので、銑太郎せんたろうは、取附とッつきに山門の峨々ががそびえた。巨刹おおでらの石段の前に立留まって、その出て来るのを待ち合せた。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
光堂(これは今でも残っております)南方には毛越もうつ寺などの巨刹おおでらがあり、堂塔十、坊舎千という、今から想像もつかぬ繁昌でしたが、義経をかくまった為に、頼朝の怒を買い
水中の宮殿 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
畑中の坂の中途から、巨刹おおでらの峰におわす大観音に詣でる広い道が、松の中をのぼりになる山懐やまふところを高くうねって、枯草葉のこみちが細く分れて、立札の道しるべ。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この日の大火は、物見の松と差向う、市の高台の野にあった、本願寺末寺の巨刹おおでらの本堂床下から炎を上げた怪し火で、ただ三時みときが間に市の約全部を焼払った。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
陸近くがぢかなれば憂慮きづかいもなく、ただ景色のさに、ああまで恐ろしかったばばの家、巨刹おおでらやぶがそこと思うなだを、いつ漕ぎ抜けたか忘れていたのに、何を考え出して、また今のいなな年寄。……
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わかい男ははばかって、鐘撞かねつき堂からのぞきつつその遊戯あそび見愡みとれたが……巨刹おおでら黄昏たそがれに、大勢の娘の姿が、はるかに壁にかかった、極彩色の涅槃ねはんの絵と、同一状おなじさまに、一幅の中へ縮まった景色の時、本堂の背後うしろ
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
町の東と西とに分れて、城のやぐらと、巨刹おおでらの棟が見える。