屋形船やかたぶね)” の例文
あるひは両国花火の屋形船やかたぶね紺絞こんしぼりの浴衣ゆかたも涼し江戸三座えどさんざ大達者おおだてもの打揃うちそろひてさかずきかわせるさまなぞあまりに見飽きたる心地す。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
岸をトンとすと、屋形船やかたぶねは軽く出た。おや、房州で生れたかと思ふほど、玉野は思つたよりたくみさおさす。大池おおいけしずかである。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
隅田の情趣になくてはならない屋形船やかたぶねも乗る人の気分も変り、型も改まって全く昔をしのぶよすがもない。
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
あぶのような羽虫はむしも飛んでいる。河上ではつりをしている人もいる。何が釣れるのか知らない。底まで澄んでみえるような水の青さだった。時々、客を乗せた屋形船やかたぶねが下りて来る。
田舎がえり (新字新仮名) / 林芙美子(著)
まもなく、川下の森のようになった柳の木蔭で、探し当てたのは、つなぎ捨てられた屋形船やかたぶねの一つです。夏になると、この宮川が屋形船に覆われて、花柳かりゅうちまたが川の上へ移される。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
遠くは水神すいじん、近くは首尾しゅびの松あたりを納涼の場所とし、両国を遊覧の起点とする江戸で、柳橋につないである多くの屋形船やかたぶねは今後どうなるだろうなどと言って見せるのもこの人だ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
平次は屋形船やかたぶねの中に入つて行きました。
薄暑はくしょはや日蔭うれしき屋形船やかたぶね
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
おめでたう存じまする、皆、太夫様の御人徳ごじんとく。続きましては、手前あずかりまする池なり、所持の屋形船やかたぶね
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さて両国橋納涼の群集と屋形船やかたぶね屋根船の往来ゆきき(中巻第三図)を見てすぐれば、第四図は新柳橋に夕立降りそそぎて、なまめかしき女三人袖吹き払ふ雨風に傘をつぼめ跣足はだしすそを乱して小走こばしりに急げば
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
……島へ渡した細綱ほそづな手繰たぐつて、立ちながらあやつるのだが、れたもので、あとを二押ふたおし三押みおし屋形船やかたぶねへ来ると、よしを聞き、うおを視て、「まあ、」と目をみはつたきりあわただしく引返ひきかへした。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)