寝床ベッド)” の例文
旧字:寢床
ちょうどそれが懐中時計の機械の中の紅玉石ルビーを象徴するように、赤い豆電気が三ヵ所から、寝床ベッドに向ってぼんやりした光を投げている。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余は白い寝床ベッドの上に寝ては、自分と病院ときたるべき春とをかくのごとくいっしょに結びつける運命の酔興すいきょうさ加減をねんごろに商量しょうりょうした。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしその部屋に入った私が、まっ先に気づいたものは、部屋の片隅の小机の前に延べられた、クリスマス・ツリーの小さな主人あるじ寝床ベッドだった。
寒の夜晴れ (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
やがて上の蒲団を容赦なく引きけると、髪毛かみのけもうと空中に渦巻かせて、寝床ベッドの中に倒れ込むようにメスを振りおろした。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それからさて父親は小さな銀製の箱を寝床ベッドの下から取り出しながら、イワンの方を向いてこう云いました。
イワンとイワンの兄 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
美奈子は、朝眼が覚めると、寝床ベッドの白いシーツの上に、緑色の窓掩カーテンを透して、朝の朗かな光が、戯れてゐるのを見ると、急に幸福な感じで、胸が一杯になつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
例えば室内に刀掛かたなかけがあり、寝床ベッドには日本流の木の枕があり、湯殿ゆどのにはぬかを入れた糟袋があり、食物もつとめて日本調理のふうにしてはし茶椀なども日本の物に似て居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
寝床ベッドの上にやつと片肱をついたのは、云ふまでもなく郷田廉介で、髪は蓬々と左右に垂れ、頬はげつそりとこけ、眼は落ち窪んで、文字通り見る影もない姿であつた。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「三階に空いた寝床ベッドがありますから、連れて行って寝かしてやりましたわ。服装は相当にちゃんとしているのね。あんなにお酒に酔ってどうしたのでしょう。今晩は宿めてやりましょうか」
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
キャラコさんは、船室へ帰ると、すぐ寝床ベッドへはいったが、なかなか眠れない。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
父はずいぶん衰弱しておりましたので、私は父を外の空気のあたらないところへ連れて参りますのはよくないと存じまして、船室の昇降段の近くの甲板の上に父のために寝床ベッドを拵えておきました。
そばに、俯向うつむいていた女将が、しゅくッと嗚咽おえつをして、突然、袖口をかみながら背を向けたので、二人もはっとして、寝床ベッドの方へ眼をふり向けた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これを一日のうちに何千回か何万回か繰返すと、機関室の寝床ベッドにジッと寝転んでいても、ヘトヘトに疲れて来る。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
美奈子は、朝眼が覚めると、寝床ベッドの白いシーツの上に、緑色の窓掩カーテンを透して、朝の朗かな光が、たわむれているのを見ると、急に幸福な感じで、胸が一杯になった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その手欄てすりに掴まりながら、彼は、首をのばして、硝子ガラス窓のうす暗い明りへ呼びかけた。白い寝床ベッドがトムの眼に映った。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから三日ばかりした真夜中から、波濤なみの音が急に違って来たので眼がめた。アラスカ沿岸を洗う暖流に乗り込んだのだ……と思ったのでホッとして万年寝床ベッドの中に起上たちあがった。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
生木のバチバチとはぜる音が白い寝床ベッドの耳ちかく聞えてくる。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)