宸襟しんきん)” の例文
自分たちの出る事が、百姓万民の幸福となり、朝廷のご宸襟しんきんをもやすんじ奉る唯一の道であると固く正義づけての上の信念であった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「事が成就したあかつきは、恐れ多くも宸襟しんきんを悩まし奉ったお詫びに、自分らは二重橋で切腹をせねばならぬと思っております」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
当節、大樹帰城の儀、叡慮えいりょにおいても安んぜられず候間、滞京ありて、守衛の計略厚く相運あいめぐらされ、宸襟しんきんを安んじ奉り候ようおぼし召され候。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
同時に彼等は此の大乱の道徳的責任を感じて居るらしいのである。多くの神社仏閣を焼き、宸襟しんきんを悩まし奉る事多く、此の乱の波及する所は全く予想外である。
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
過ぐる日の上巳じょうしの祝節。わが仁宗皇帝におかれては、打ちつづく世の悪疫あくえきを聞こしめされ、いたく宸襟しんきんをなやませ給うた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神祖(東照宮のこと)以来の鴻業こうぎょうを一朝に廃滅するは先霊に対しても恐れ入る次第であるが、畢竟ひっきょう天下を治め宸襟しんきんを安んじ奉るこそ神祖の盛業を継述するものである、と、慶喜に言われても
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
で、すでに臣檄文げきぶんをとばして魏延ぎえんに擬兵の計をさずけ、益州南方の要所要所へ配備させてありますから、これまた、宸襟しんきんを悩まし給うには及びませぬ
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「臣、不才にして、遠くき、よく速やかにたいらぐるあたわず、多くの御林の兵を損じ、主上の宸襟しんきんを安からざらしむ。——まず罪をこそ問わせ給え」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上御一人かみごいちにんまでが、百姓のため、宸襟しんきんをなやませられている事を、彼は、われのみの栄華におごって、かくの如く、民衆のためなど念頭にもしていない」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
承れば供御くごの物も、連日おあがりにならない由ですが、どうかもう宸襟しんきんを安んじていただきたい。臣も、なにとてこれ以上、情けのないわざをしましょう。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも朝廟ちょうびょうあやうき間、献帝諸方を流浪のうちも、いまだ国をただし、かんをのぞき、真に宸襟しんきんを安めたてまつれりという功も聞かず、ひとえに時流をうかがい権者に媚び
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その虚を計って、内に密々同志を結び、一挙に大義を唱えて大事をなすならば、きっと成功を見るは疑いもない。帝のご宸襟しんきんもそのときには安んじ奉ることができよう。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主人の董承は、先頃から書院に閉じこもったきり、どうしたら曹操の勢力を宮中から一掃することができるか、帝のご宸襟しんきんを安んじてご期待にこたえることができようか。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
公領から上がる御料では、なおまた各地の乱に乗じて、武力や土寇どこうのためかすめ取られるおそれがあり、それでは真に宸襟しんきんを安んじ奉ることにならないと考えたからであった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とはいえ、一山の大衆もまた、われわれ武臣も、いずれか皇土の臣でないものはない。かくの如き争乱は、みな宸襟しんきんを悩まし奉るものである。——大悟せられよ、僧は僧に帰命きみょうせられよ。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「かならず宸襟しんきんを安め奉りますれば、何とぞ、御心つよくお待ち遊ばすように」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)