家禄かろく)” の例文
この一条については下士の議論沸騰ふっとうしたれども、その首魁しゅかいたる者二、三名の家禄かろくを没入し、これを藩地外に放逐ほうちくして鎮静ちんせいを致したり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかし五百両という金額がいかに使われたか、ということはついにわからず、老臣協議の結果、「家禄かろくを半減して返済に当てる」ということになった。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
つぶやいた。彼の周囲のものも、僅少きんしょう家禄かろく放還金をみんな老爺さんの硫黄熱のために失われてしまっているのだということを、あたしたちも段々にさとった。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そのなかでわたくしは産をいたしますし、何が何やらもう夢のようで、それから家禄かろくはなくなる、家財はとられますし、私は姑と年寄りのぼく一人ひとり連れましてね
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
名誉と家禄かろくを賭けた血の出るような争い碁も興ある烏鷺うろの戦となる。しかも交互におく黒白の一石は自分の恥しい俗手凡手ではなくて本因坊の、井上因碩いんせきのそれである。
独り碁 (新字新仮名) / 中勘助(著)
「あんな大酒を召しあがらなければ、ずいぶん、ご出世もし、家禄かろくも百石にはなっていたろうに」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紀州はじめ諸藩士の家禄かろくは削減せられ、国札こくさつの流用はくふうせられ、当百銭(天保銭)の鋳造許可を請う藩が続出して、贋造がんぞうの貨幣までがあらわれるほどの衰えた世となった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
特に「寸志」とて献金さえすれば、その金高に相当するの家禄かろく、格式を附与するの制すら出できたり、その状すなわち海防費献金をつのりて位階を売るが如きものありき。ある物は皆無かいむまさる。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
そして二十五、六歳になって卒業の出来ないようなやくざ者は家禄かろくの十分の八を除いて、生涯藩の役人が勤まらないことにしてあった。学業としてもっぱら朱子学を教えていたのである。
青年の天下 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
まんまと旗本五百石の家禄かろくを横領してしまいなされました。
糾明すれば、兄の罪は消え家禄かろくは旧に復するかもしれない、だが、死んでしまった兄を生き返らせることはできない
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
塾長になっても相替あいかわらず元の貧書生なれども、その時の私の身の上は、故郷に在る母と姪と二人は藩からもらう少々ばかりの家禄かろくで暮して居る、私は塾長になってから表向おもてむきに先生まかないを受けて
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そのため四百七十石の家禄かろくはいつも足らず、八方借りだらけで、要平の呑み代など出る余地がなかった。そこで要平は友人にたかり、到るところに勘定をめた。
女は同じ物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いずれも家禄かろくが低く、一年代りに江戸番を勤めますことは困難なため、二人増して頂いたうえ、二人ずつ三番に勤められるようにと願い出たしだいでございます。
次兄の粂之助くめのすけ家禄かろく三百石の内から五十石貰って分家し、三兄の又三郎は中村参六へ養子にはいった。中村は新番組の百九十石で、なかなか羽振りのいい家である。
ひやめし物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
正月十七日、庄兵衛は城へ呼びだされ、閉門永蟄居えいちっきょと、家禄かろくの内百石の削減を申し渡された。伊原友三郎を匿い、その逃亡を助けたことが重科に当る、というのである。
十八条乙 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼は支配役に呼びつけられ、家禄かろく屋敷召上げという達しを受けた。格別のお慈悲をもって小屋を賜わり、捨て扶持二十石を下さる、向後は身を慎むようにということだった。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
矢堂玄蕃の家禄かろくは二百石であるが、実収が百五十石あまりであることも知っているであろう
改訂御定法 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「七十郎は御家臣に召し出される、家禄かろくは五百石、これでも石巻へ遊びにゆくか」
「こんど目付役にあげられたそうだな」と彼は七兵衛を見た、「目付役にあげられて、家禄かろくも四百石あまりに加増されたそうじゃないか、出頭の祝いを述べなくちゃあいけないな、おめでとう」
津田庄左衛門 家禄かろく召上げ放国。
いさましい話 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)