妓家ぎか)” の例文
深川の妓家ぎか新道しんみち妾宅しょうたく、路地の貧家等は皆模様風なる布置ふち構図のうちおのずか可憐かれんの情趣を感ぜしむ。試みに二、三の例を挙げんか。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
山東さんとう河北かほくの旅商人が取引にあつまる市場、駅路うまやじに隣接しているので、俗に、妓家ぎか千軒、旅籠はたご百軒といわれ、両替屋りょうがえやだけでさえ二、三十軒もかぞえられる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大方新橋あたりの妓家ぎかならずば藤間ふじまが弟子のもとに遊べるならんと思ひしに、唐机の上の封書開くに及び初めて事の容易ならぬを知りけり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
やんごとなき宮すじの姫が六条の妓家ぎかに養われていたり、また、元は院ノ少将なにがしのおもものが、今は夜ごと武者のしゃくに出て、無残にむしられているなどの例も
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妓家ぎか酒亭の主人あるじまでが代議士の候補に立つような滑稽こっけいな話は聞きたくも聞かれなくなったが、その代りカフェーの店先にも折々よろいをきた武者人形が飾られ
枇杷の花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
まさに退いて世の交りを断たん事を欲し妓家ぎか櫛比しっぴする浅草代地あさくさだいち横町よこちょうにかくれ住む。たまたま両国大相撲春場所の初日に当りてあたり何となく色めき立てる正午ひる近くなり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
八重その年二月の頃よりリウマチスにかかりて舞ふ事かなはずなりしかば一時ひとしきり山下町やましたちょう妓家ぎかをたたみ心静に養生せんとて殊更山の手の辺鄙へんぴを選び四谷荒木町よつやあらきちょうに隠れ住みけるなり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
明治三十年の頃僕麹町一番町こうじまちいちばんちょうの家に親のすねをかじりゐたり。門を出でて坂を下れば富士見町の妓家ぎか軒先に御神燈ごじんとうをぶら下げたり。御神燈とは妓の名を書きたる提灯ちょうちんをいふなり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)