奸物かんぶつ)” の例文
私が渡辺七兵衛らと共に、綱宗さま側近の奸物かんぶつを斬って御詮議せんぎにかけられましたとき、御屋形さまお一人が私どもを庇護ひごされました。
それで少しは心が慰さもうかと思ったのだ。世間では伊勢殿が悪いという。成程なるほどあの男は奸物かんぶつだ、淫乱だ、私心もある、猿智慧さるぢえもある。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
あいつは大人おとなしい顔をして、悪事を働いて、人が何か云うと、ちゃんと逃道にげみちこしらえて待ってるんだから、よっぽど奸物かんぶつだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
奸物かんぶつにも取りえはある。おぬしに表門の采配さいはいを振らせるとは、林殿にしてはよく出来た」
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
勝が奸物かんぶつだという評判は、つまり彼が外交に苦心しているところなんだろう。小栗が軍用金を集めるということは、彼が主戦論の代表だということに、そのままそっくり受取れる。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
自分妾狂めかけぐるいしながら息子むすこ傾城買けいせいがいせむる人心、あさましき中にも道理ありて、しちの所業たれ憎まぬ者なければ、酒のんで居ても彼奴きゃつ娘の血をうて居るわと蔭言かげごとされ、流石さすが奸物かんぶつ此処ここ面白からず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
もし彼が野望の奸物かんぶつなら、当然、勝目のわかっている北条方へ付く。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、一方では奸物かんぶつとして憎まれ嫌われはばかられていた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それで少しは心が慰さまうかと思つたのだ。世間では伊勢殿が悪いといふ。成程なるほどあの男は奸物かんぶつだ、淫乱だ、私心もある、猿智慧さるぢえもある。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
「少しぐらい身体が疲れたって構わんさ。あんな奸物かんぶつをあのままにしておくと、日本のためにならないから、僕が天に代って誅戮ちゅうりくを加えるんだ」
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
七兵衛らは昂然こうぜんと「殿を悪所遊びに誘い、このたびの大事に至らしめた奸物かんぶつだから、誅殺ちゅうさつしたのである」
「誰いうとなく、そういったうわさが聞えていますのよ、勝は奸物かんぶつですって」
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ああやって喧嘩をさせておいて、すぐあとから新聞屋へ手を廻してあんな記事をかかせたんだ。実に奸物かんぶつだ」
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私はそのまえに奸物かんぶつどもが策謀して、罪を陸田さんになすりつけるような、……むろんこれは杞憂だと思うが、奸物どもとしてはそのくらいの謀略はやりかねない、私はそのことを心配しますね
日日平安 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
得手えてに帆揚げる四藩の奸物かんぶつ
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
男は「奸物かんぶつ」というような叫びをあげ、抜き打ちに甲斐へ斬りつけた。刃がにぶい光をとばし、甲斐はうしろへかわしながら、左手を振った。案内の侍が狼藉ろうぜき者と喚き、久馬が割ってはいろうとした。