)” の例文
もちろん官兵衛のそれには、すでに一けた酒のちからも手伝ってはいたろう。杯は彼の憤然たる唇から常に離れなかった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
エレーンに八万四千の毛孔ありて、エレーンが八万四千の香油を注いで、日にそのはだえなめらかにするとも、潜めるエレーンは遂に出現しきたはなかろう。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
錫筩の内に一土を内れ、更に内に錫筩を内れ、藥汁を盛る。
光をかかぐる人々 (旧字旧仮名) / 徳永直(著)
蒋幹は、わざと、綸巾りんきんをいただき、道服をまとい、一の酒と、一人の童子をのせただけで、扁舟へんしゅう飄々ひょうひょう、波と風にまかせて、呉の陣へ下って行った。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「よかろう。では、わしは手土産てみやげでもげるとしよう。亭主、大がめに酒を詰め、牛肉二十斤、鶏一トつがい、あの小舟のうちへ積んどいておくれ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
龍眉りゅうび鳳目ほうもく、唇あかく、いかにも洒々しゃしゃたる侠骨の美丈夫。背には一の狩矢、手に籐巻とうまきの弓をかいこんでいた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ご不審か。いやじつは、心ばかりに、酒一、持参いたした。——夏の夜、短うござるが、高氏もお相手申す。尽きぬおものがたりなど、伺うておきたいと存ずるが」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、さかずきをあげ合った。けるほどに、月は冴えを増し、露はたまかつらにちりばめ、主客の歓は尽きるところがない。談笑また談笑のくごとに、一の酒はからになるやと思われた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
行ってみると、城の南苑に、一枚のむしろと一の酒をおいたきりで、黄祖は待っていた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十の違いか。わしがその年になるまでには、きっともう一度、都へのぼる日があろうぞ。鎌倉のありかたと言い、眼に見た都のさまと言い、これがこのままの世でいるわけはない。おやじ、もう一、酒を
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)