売卜ばいぼく)” の例文
旧字:賣卜
または家の裏口から入ってきて売卜ばいぼくを強うるのであるが、ロシアの無知な民衆の間には、なかなかにツイガンの占いが歓迎されるのである。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
四十二、三の好色家らしい売卜ばいぼく先生は、実に、白髯はくぜんを剃り落して、頬綿ほおわたをふくみ、音声まで巧みに変えた塙江漢はなわこうかんなのであった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「坐右」の語は僧に対する多少の尊敬を表し、「売卜ばいぼく先生」と言へば「卜屋算うらやさん」と言ひしよりも鹿爪しかつめらしく聞えて善く「訪はれ顔」に響けり。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
仰天して近隣の売卜ばいぼくの名人白翁堂勇齋のところへ駈け込むのだが、そのとき圓朝はこの勇齋をして「尤も支那の小説にそういう事があるけれども」
或る雨の日の午後のことであったが、長屋同志の重立った者が十人、売卜ばいぼく者の尾崎不識斎なる者の宅に集合した。
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
売卜ばいぼくをしたりして露命を行人の合力ごうりきによって繋ぎつつ、また来ん春を待つといった在来の型の浪人姿が、一心に釣を垂れているだけの平凡な光景でありました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
松田と云ふ男は『売卜ばいぼく』と云ふ名が付いて居る男だが、脊の低い大黒さんの様な顔をした男である。
「何しろ八幡さま御境内で、売卜ばいぼくをなされておりますようで、すっかり、驚かされてしまいました」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
すると芭蕉以外の人には五六年は勿論、三百年たつても、一変化することは出来ぬかも知れぬ。七合の俳諧も同じことである。芭蕉はみだりに街頭の売卜ばいぼく先生を真似る人ではない。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
大「誠に恥入りました儀でござるが、浪人の生計たつき致し方なく売卜ばいぼくを致して居ります」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そのありさまは、わが国の売卜ばいぼくごうも変わらぬ。この手相は掌中の紋様を鑑定するので、わが手筋占いと大同小異である。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
売卜ばいぼく先生をして聞かしめば「この縁談初め善く末わろし狐が川をわたりて尾を濡らすといふかたちなり」などいはねば善いがと思ふ。(四月一日)
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
呉用はやがて、片手の鐸鈴すずを振り鳴らしつつ、売卜ばいぼく先生がよくやる触れ口上を歌いながら、街をりんりんと流して行った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
屋敷へ帰っても物堅い渡邊織江ですから早く礼にかんければ気が済みませんので、お竹と喜六をれ、結構な進物をたずさえまして日暮ヶ岡へまいって見ると、売卜ばいぼくの看板が出て居りますから
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
名古屋の辻で、売卜ばいぼくをしていた男を、不審と見て、これも徳川家の手筋が、さぐってみると、関ヶ原の残党毛利勝永の臣竹田永翁えいおうであったとやら。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手に御幣ごへいを握りてトオカミを叫び、観音参詣さんけいの老婆が一文ずつためたる金子を中店の売卜ばいぼくに費やし、天理信仰の病人が祖先伝来の財産を天輪王の御水に傾け、あるいは成田の不動に断食の願をかけ
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
売卜ばいぼく先生の下闇の訪はれ顔
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
彼も天文や陰陽学には並ならぬ興味をもっているので、管輅が世の常のいわゆる売卜ばいぼくの徒でないことを早くも認めて
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あるいは売卜ばいぼくにたずね、あるいは御鬮みくじを引きなどして探索するうちに、ある人より、四谷大木戸の先なる寺の墓所に死人ありと告ぐるゆえ、家族の者すぐさま四谷に行きしところ、もはや検死相済み
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「乗れません、はい馬になぞ、元来、乗ったことのない売卜ばいぼく者でございますんで、どうぞ、そればかりは御用捨を」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一家の建築には小刀細工では間に合わず、大店の商法には目の子勘定では役に立たず、生死の迷心を定むるには、人相、方位のごとき小刀細工や、売卜ばいぼく禁厭きんようのごとき目の子勘定では到底むずかしい。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
それらの者にははり、灸治、按摩あんま売卜ばいぼくの道など教えて、ともあれ職屋敷の制度下にいれば、何かの生業たつきと保護を得られ、そして穀つぶしなどとさげすまれるいわれもなくなった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一年三百六十五日広小路へ売卜ばいぼくの野天を張っているうちにゃ、これでも、易はあたらなくってもいいから相談相手になってほしいといってくる御婦人方も少なからぬ男でしてな
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
離したらお蝶のスンナリした姿が倒れてしまいはしないかと、こわごわ支えているのは馬春堂、——かの忍川しのぶがわの枯れ柳に、大道世帯をおき残して、その晩から姿をくらました売卜ばいぼく先生です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの女の住居すまいの近くに、こんな売卜ばいぼくをはじめたのも、玉枝をおびきよせる手段には違いないが、今ここで女に縄を打てば、すぐ一方の敏感な悪魔の首領を逃がしてしまう。玉枝の烏爪は見届けた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
談天口だんてんこうとも号していますが売卜ばいぼくは本業ではありません。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
売卜ばいぼく先生の、まんまと玉麒麟ぎょっきりんまどわし去ること
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)