和毛にこげ)” の例文
こまかい和毛にこげの黒いのが一杯に掩うて太陽に面して立った時は、嘘でも御まけでもなく、顔から陽炎かげろうが、ゆらめきのぼって居る様に見える。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
まわりの毛が棉の木についている棉花のようなフワフワした和毛にこげなので、ちょうど孵ったばかりの烏の子供の頭のようだ。
葡萄蔓の束 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
だから冬から春への推移だって、鳥屋の前で金糸鳥かなりや和毛にこげにそそぐ日の光を二三秒立留って眺めて面白いと思っただけであった。忙しいことがむしろ面白かった。
風景 (新字旧仮名) / 原民喜(著)
もみくしゃに取り乱され、脚の和毛にこげが菅糸のように、ふわふわ空に揺られている、可愛そうだと言った口で、今夜私も一緒になって、この肉を喰うのかなあと思う。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
初冬の風が吹いて満山の木が鳴った。翁は疲れ切って満足した。瓜わらべにちょっと頬ずりして土に置いた。瓜わらべの和毛にこげから放つらしい松脂の匂いが翁の鼻に残った。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
天上に桃の和毛にこげをひた撫でてはかなやと言ふも我がうつつなり
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
部屋じゅうに濛々もうもう和毛にこげをたちあがらせていた。
和毛にこげの胸の白妙しろたへてんずる聲のあはれなる。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
の葉ささやき苔くんじ、われも和毛にこげ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
されば包むに和毛にこげまろう
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
いとゞ和毛にこげのゆたかにて
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
かゝる和毛にこげの如きよる
夜の讃歌 (新字旧仮名) / 富永太郎(著)
そう云えば、赤い円い上唇の上に和毛にこげのかげがあった。ВОКСヴオクスの美人については、秋山宇一がこまかい点まで見きわめているのが可笑おかしかった。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
椅子から立ち上って子供のような和毛にこげを両手で掻きむしる。
葡萄蔓の束 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
翁ぐさあかき手にとり土つきてやき和毛にこげはじきつつ歩む
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
和毛にこげの胸の白妙しろたへてんずる声のあはれなる。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
かをらざらめやその和毛にこげ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
保のまぶたはぽってりとしていて、もみ上げや鼻の下に初々しい和毛にこげのかげがある。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
保は、和毛にこげのかげの濃い上唇をうれしそうにゆるめて、こまかく詰った白い歯なみを見せながら笑った。そして、からだを半分廊下にのこしていたドアをひろくあけて、客間へ入って来た。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)