呼子よびこ)” の例文
と——不意に静かに、夕風をうごかして、笹鳴ささなりの音か、水の響きかとばかり、あたりへ鳴ってひろがったのは呼子よびこの笛——。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
表をあわただしげに走り去る靴音、誰かを探し求める声、呼子よびこの笛、サーベルの音も聞えた。先刻の警官隊かも知れない。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
ビリリリリと呼子よびこがなりひびき、大型懐中電灯の光が、いくすじも、煉瓦小屋の中に集中され、いきなりパン、パンとピストルの音がつづきました。
青銅の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そしてなおも私と言い争っていた時に、小さな低い呼子よびこの音が丘の大分離れた処で鳴った。二人ともそれを聞けば十分だった。いや、十二分だった。
早く逮捕を依頼しろ。なんだってもう捕えたというのかいヤーロの奴を。それじゃ一同、本庁へ引揚げだ。それ、呼子よびこの笛を吹くんだ、呼子の笛を……
一九五〇年の殺人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その瞬間、俊夫君は呼子よびこ笛を取りだして「ピー」と一声鳴らしました。すると実験室の電灯がさっと消えて家の外も中も、真っ暗闇に包まれてしまいました。
暗夜の格闘 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
けれどもそのときはもう硝子ガラス呼子よびこは鳴らされ汽車はうごき出しと思ううちに銀いろのきりが川下の方からすうっと流れて来てもうそっちは何も見えなくなりました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
一人では万一賊の方が多勢おおぜいではいけませんから派出所へ立帰り、呼子よびこにて同僚を集め、四人ばかりにて其の場へ駈附け、裏口台所口桟橋の出口へ一人いちにんずつ立番をして居り
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「家から誰も出すな。持場持場を固めて、手に余る奴が飛出したら呼子よびこを吹けッ」
と、どうでしょう手近のところから、呼子よびこの音が聞こえて来たではありませんか。
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ピピピピと奥の方で断続する釘勘の呼子よびこを聞いてまたゾッと身をすくませると、怒り立った一方のののしりが
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またある時は二つの船は互いに遠く乗り放し矢合わせをして戦った。闇の夜にはかがりき、星明りには呼子よびこを吹き、月の晩には白浪しらなみを揚げ、天竜の流れ遠州えんしゅうなだを血にまみれながらただよった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
燕作は、バッと五、六けんほど、およぐようにつんのめっていきながら、ピピピピピ……と合図あいず呼子よびこをふいてげた。——と思うと八方から、おどりたった覆面ふくめん浪人ろうにんどもが
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
南無三なむさん呼子よびこをふいた部将が抜刀ばっとうをさげて、あっちこっちの岩穴いわあなをのぞきまわっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いきなり、耳をつんざく呼子よびこが、するどく、頭の上で鳴ったと思うと、かなたの岩かげ、こなたの谷間から、やり陣刀じんとうをきらめかせて、おどり立ってくる、数十人の伏勢ふせぜいがあった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)