合壁がっぺき)” の例文
これが矢張り軍人で、砲兵大佐とあった。妙に国家の干城に縁があると思った。近所合壁がっぺきとしては性の知れない人間は好ましくない。
閣下 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
主人の雄弁、近処合壁がっぺきを驚かす最中、銚子を手にして出で来れるは、細君なり。客と、印刷的の祝詞の交換済みて、後ち、主人に
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
というのも、近所合壁がっぺき西門慶せいもんけいと金蓮のわけあいを知らぬはなく、どうなることかと、内心、かかり合いを極度に恐れていたからである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といって、声でも立てようものなら、忽ち近所合壁がっぺきの弥次馬が飛びだして来て、私を階段から突き落すでしょう。
無駄骨 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
生みの親、親身の兄弟なんてものに、どこかこころが引ッかかっていると見える——おれは、弁公を、合壁がっぺきに頼んで置いて、のこのこ江戸まで引ッ返したのさ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
何の事はない、母親は自分の口の粗暴な事と、堕落書生の忰を持った事を、近所合壁がっぺきへ出来るだけ仰山ぎょうさんに、出来るだけ廣く、あらん限りの声を絞って吹聴するに止まる。
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そうなると、もう、こらえにこらえぬいている憤怒がかっと込み上げて抑えることが出来ない。私は、わざと夜遅く近処合壁がっぺきに聞えるように、潜戸をどんどん打ち叩いて
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
近所合壁がっぺき腕白息子わんぱくむすこと友達になってはどうしても絶体的に買食や間食あいだぐいを禁ずる事が出来ん。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
……緞帳どんちょう芝居の役者評判か色ばなしか、近所合壁がっぺきの悪口が始まる、……恥も外聞もねえような、男も顔が赤くなるような下劣なことを饒舌って、げらげら笑って、しめえにゃアてんでんが
嘘アつかねえ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
近所合壁がっぺきの評判になっていたそうですがね。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
騒ぎは近所合壁がっぺきで見ていたに違いない。しかし西門慶の羽振りは知っているし、婆のあとのたたりも空恐ろしい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
零落れいらくし果てた青年が、冬空に、浴衣ゆかたを引ッ張って、親、兄弟の家に、そっと裏口から、合力を受けようと忍び寄って、中部なかの歓語にはいりかねていたその折、合壁がっぺきから、泥棒よばわりを
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
近所合壁がっぺきの騒ぎになり、人を雇ってまで捜した、むろんこの井戸へも見に来たろうが、どうしてもわからねえ、神隠しか人さらいか、占ってもらったり加持祈祷かじきとうもやった、それでも行方がわからねえ
が、こんな逢曳あいびきが、世間誰にもわからずに、永続きするはずはなかった。いつしか二人の密会は近所合壁がっぺき私語ささやきとなっていたが、知らぬは亭主の武大ばかり……。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その騒ぎに、長屋中が総出になって、とにかく、怪我けが人を戸板から移したが、近所合壁がっぺきの同情は、瀕死の紋日の虎よりは、むしろ、そばにメソメソと泣いている、お三輪と乙吉の方に集まって
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なおも近所合壁がっぺきの者どもを一人一人かこいへ入れて、今朝から厳しく調べておるうちに、二、三、怪しい者が現われたので、引っくくろうとすると、やにわに得物えものって手むかい致し、近所の衆
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
裁かれた夫婦者にはべつにありがたくも何ともないが、物見高い近所合壁がっぺきやまわりの見物は実に感心する。ばてれんは親切だ。ものがよく分る。ほんとに世の中のために働いている。できないことだ。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)