可憐いとし)” の例文
けれど、妾もあの通り、可憐いとしい妹を振り捨て、受けられる栄華をも捨て切って、身も命も貴方に投げ出しているのではございませぬか。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
可憐いとしひとよと手を取らむとすれば、若衆姿の奈美女、恥ぢらひつゝ払ひけ。心き給ふ事なかれ。まづ此方こちらへ入らせ給へ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ああお前はわしにとって、黄金よりも珠よりももっともっと可憐いとしく思われる時もあれば、斬り殺しても飽き足りないほど憎く思われる時もある。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さしもこの穢れたる世にただ一つ穢れざるものあり。喜ぶべきものあるにあらずや。貫一は可憐いとしき宮が事を思へるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
と直きそのそばに店を出した、二分心にぶしんの下で手許てもと暗く、小楊枝こようじを削っていた、人柄なだけ、可憐いとしらしい女隠居が、黒い頭巾ずきんの中から、隣を振向いて、かすれ掠れ笑って言う。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかしそれは当たらず、小菊は昔しの抱え主を訪ね、幼い時代の可憐いとしげな自分の姿を追憶し、しみじみ身の上話がしたかったのであった。やり場のない憂愁が胸一杯にふさがっていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
だが、弟子や小僧たちは、皆、二階のお粂を不愍ふびんがった。情夫おとこがあると聞けば、よけいに、可憐いとしがるのだった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若い美貌の先達によって、自分を可憐いとしと云われたことが、嬉しく思われてならないのであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
頼まるるも宮が心なりと、彼は可憐いとしき宮を思ひて、その父に対するいかりやはらげんとつとめたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
惚れてよ、可愛い、可憐いとしいものなら、なぜ命がけになって貰わない。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とさえ可憐いとしまれて、自分という者がついていながら、この幾十日のあいだ、子達に、甘い物を胃にらせてやれなかった責めを、母の罪とさえ感じるのであった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其方そちには大切で恋しいか! ……よーしそれではその主税めを! ……が、まアよい、まアその中に、その主税様を忘れてしまって、頼母様、頼母様と可憐いとしらしく、わしを呼ぶようになるであろう。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
雪の朝の不忍の天女もうでは、可憐いとしく、可愛い。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼には、処女心おとめごころの清純というものを、この時、可憐いとしいと思うような余裕はなかった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
可憐いとしと……可憐と……おぼしめしましてか?」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
可憐いとしとおっしゃった、この呉服を可憐と)
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
などと可憐いとしがる者はない。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
髪の中に可憐いとしくも隠してあったわい
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)