双肌もろはだ)” の例文
旧字:雙肌
又も大盃をあおり付けて、素敵に酔払っているらしく、吉角力きちずもうの大関を取ったという双肌もろはだを脱いで、素晴らしい筋肉美を露出している。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
死骸の帯をゆるめて、双肌もろはだ脱がせると、背から尻へかけて、一面の青痣あおあざ、それに相応して着物の破れなどのあるのを確かめると
双肌もろはだ脱いだ儘仰向あふむけに寝転んでゐると、明放した二階の窓から向ひの氷屋のフラフと乾き切つた瓦屋根と真白い綿を積み重ねた様な夏の雲とが見えた。
氷屋の旗 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「そうだ、こいつは正真正銘のぎりぎり結着だ、手を貸してくれるか忠さん」「いいとも、乗りかかった舟だ、双肌もろはだぬぎでやろうじゃあねえか」
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
縁ばなへきて双肌もろはだぬぎになると、いつものように台所かられ手をき拭き女房があがってくる。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
其の頃は今と違いまして花見の風俗は随分下卑げびたもので、鼻先のまるくなった百眼ひゃくまなこを掛け、一升樽をげて双肌もろはだ脱ぎの若いしゅも多く、長屋中総出の花見連、就中なかんずく裏店うらだな内儀かみさん達は
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
九郎は双肌もろはだを脱いで立ちあがり、ペツと頑固な拳骨に息を吐きかけたかと思ふと、バツトを振るやうな身構へで、いきなりグワンと私の脳天に物凄い横擲りを喰はせた。それと同時に
鎧の挿話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
金で使われているのを気が付かずに、向う鉢巻きの双肌もろはだ脱いでかけまわるほど憐れな人種となり果てたのであった。
寢卷は双肌もろはだを押し脱いだまゝ、髮は少し亂れて、顏にはたいした苦惱の色もなく、生前の活々した美しさはないにしても、決してみにくい姿ではありません。
どちらも若く、一人は双肌もろはだぬぎ、一人はふんどしに白い晒木綿さらしの腹巻だけで、その裸の男のほうが去定に呼びかけた。
クルリと双肌もろはだを脱ぐと、鯛六の襟髪を掴んで、溝板の上へ犬っころ投げに叩き付け、少し斜めに、背中一面に朱入で彫った張飛の刺青ほりものを覗かせて、見得を切ります。
双肌もろはだぬぎになって髪を洗ってる女なんかにぶつかると、どうしても眼をやらずにはいられなくなる、あとで自分をいやらしい野郎だと思い、死にたいほど恥ずかしくなるが
ちいさこべ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
うやうやしく礼拝を遂げた。威儀を正して双肌もろはだくつろげた。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
二十貫もある大きな猪でございました、原田どのは双肌もろはだぬぎになって、山刀でみごとに腹を裂き、皮をぎ、肩や腿肉ももにくを切り取って、半ときと経たぬまに、きれいに拵えてしまわれました。
多い毛を男髷おとこまげにあげて、先をザブリとったのが見得、双肌もろはだを脱いで、縮緬ちりめん長襦袢ながじゅばん一つになり、金沢町自慢の「坂上田村麿」の山車の先登に立つと、全く活きた人形が揺ぎ出したようで
静かに双肌もろはだくつろげながら小刀の鞘を払った。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
胸が痛むから診てくれと云って、こっちがなにも云わないうちに、くるっと、いさましく肌ぬぎになった、双肌もろはだぬぎだ、いやその美しいこと、女の肌は見馴れているが、あんなに美しい胸を
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
双肌もろはだぬぎになり、右手に掛矢を持って、血ばしった眼をぎらぎらさせている。裸の肩はまさに雄牛のような肉づきで、左の首の付け根にある瘤も、健康な肉の盛りあがりとしかみえなかった。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)