勝手元かってもと)” の例文
父吉左衛門は多年尾州公のお勝手元かってもとに尽力した縁故から、永代苗字帯刀えいたいみょうじたいとうを許されたり、領主に謁見することをすら許されたりしている。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まごまごとするうちに怪物は勝手元かってもとへまわり、かまどの傍に往って、しきりに飯櫃めしびつを指さして欲しそうな顔をした。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
灸は指をわえて階段の下に立っていた。田舎宿いなかやど勝手元かってもとはこの二人の客で、急に忙しそうになって来た。
赤い着物 (新字新仮名) / 横光利一(著)
勝手元かってもとには七輪しちりんあおぐ音折々に騒がしく、女主あるじが手づからなべ茶碗むし位はなるも道理ことわり、表にかかげし看板を見れば仔細しさいらしく御料理とぞしたためける。云云。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
十二、三の時から私は勝手元かってもとで祖母の手伝いをさせられた。岩下家の後嗣あとつぎから女中におとされたのだ。
勝手元かってもと御馳走ごちそう仕度したくだ。人夫がって来た茶盆大ちゃぼんだい舞茸まいたけは、小山の如くむしろまれて居る。やがて銃をうてアイヌが帰って来た。腰には山鳥やまどりを五羽ぶら下げて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
羽目はめを新しくする、たなを造るとか、勝手元かってもとの働き都合の好いように模様を変えるとか、それはまめなもので、一家に取って重宝といってはこの上もないたちの人でありました。
勝手元かってもとでは、しきりにばたばたと七りんしたあおぐ、団扇うちわおときこえていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
私は不精不精ふしょうぶしょう白銅を取り上げてち上った。そして台所の風呂敷を持って勝手元かってもとの土間へ降りた。
あたりはばからぬこえ勝手元かってもとむかってさけんだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)