先触さきぶれ)” の例文
旧字:先觸
新任の勤番支配が何用あって、先触さきぶれもなく自身出向いて来られたかということは、この家の執事を少なからず狼狽ろうばいさせました。
そしてまた、この愛情が先触さきぶれにすぎなかったも一つの新しい愛は、クリストフの心を奪い、そこにあるあらゆる他の光を薄らがせてしまった。
トンカンと云う鉄の響が、近来警鐘の如く儂の耳に轟く。此は早晩儂をこのから追い立てる退去令の先触さきぶれではあるまいか。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
湯本ゆもと立場たてばに着くと、もう先触さきぶれが通っているので、肩継人足が二十人近く、息杖いきづえをそろえて待ちかまえている。それへ
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これは重大だ。ひょっとすると、一大椿事発生ちんじはっせい先触さきぶれかもしれない。みなさん、ゆだんなく気をつけて下さい」
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その骨の尖角とがりの間から洩るる大空が、気味の悪いほどに澄切すみきっているのは、やがて真黒な雪雲を運び出す先触さきぶれと知られた。人馬の交通をさえぎるべき厳寒の時節もようやく迫り来るのである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と呼ぶ善どんを先触さきぶれにして、二三人の若い手合が大きな薦包こもづつみの荷を店の入口から持込んだ。大勝の連中のなかでは一番腕力のある吉どんが中心となって、太いなわつかみながら威勢よく持込んで来た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
本陣へは先触さきぶれがあって能登守の一行が占領してしまったけれど、林屋慶蔵というのと、殿村茂助という二軒の宿屋にも少なからぬ客が泊っていました。
「ナニ、やる奴に限って先触さきぶれは致しませんな、ただほんのイタズラでございますよ、おどかしに過ぎませんよ」
「いかにも、貴殿がまことの和田静馬殿であることは、恵林寺の先触さきぶれでも毛頭もうとう疑いのないところ、若松屋の若者こそ、甚だ怪しい、とくと吟味を致さねばならぬ」
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
上野原の宿へ着いた時も、先触さきぶれがなかったから役員どもを驚かしました。
先触さきぶれをして各牢を廻って歩くと、牢内の一同が
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)