僻耳ひがみみ)” の例文
およそ失望は落胆を生み落胆は愚痴を生む。「叔母の言艸いいぐさ愛想尽あいそづかしと聞取ッたのは全く此方こちら僻耳ひがみみで、或は愚痴で有ッたかも知れん」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
内には女中と……自分ばかり、(皆健康か。)は尋常事ただごとでない。けれども、よもや、と思うから、その(皆)を僻耳ひがみみであろう、と自分でも疑って
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と言ったと思ったのは、中将の僻耳ひがみみであったかもしれぬが、それも気持ちの悪い会話だとその人は聞いたのであった。
源氏物語:28 野分 (新字新仮名) / 紫式部(著)
最初のうちは、無論、それを自分の僻耳ひがみみとばかり、問題にはしませんでしたが、あんまり長く続くものですから、お雪もようやく気になり出してきました。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
浄土宗の本山としてはいささか釣り合いが悪いが、何んな僻耳ひがみみで聞いても確かに鶯の声だ。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
人のうめき声がしたかと思うたが、其は僻耳ひがみみであったかも知れぬ。父は熟睡じゅくすいして居るのであろう。其子の一人が今病室のあかりながめて、この深夜よふけに窓の下を徘徊して居るとは夢にも知らぬであろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
己の僻耳ひがみみでないなら、この木立
それは法師の僻耳ひがみみで、松風の音をそう感じているのかもしれませんが、一度お聞きに入れたいものでございます
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
なれど、場所がらゆえの僻耳ひがみみで、今の時節にうし刻参ときまいりなどはうつつにもない事と、聞き流しておったじゃが、何とず……この雌鬼めすおにを、夜叉やしゃを、眼前に見る事わい。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここまで明瞭に呼びかけられてみると、もう空耳だとか、僻耳ひがみみだとか、自分の感覚を疑ってはおられない。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
僻耳ひがみみでも、奥さん、と言われたさに、いい気になって返事をして、たしかに罰が当ったんです……ですが、この円髷まるまげは言訳をするんじゃありませんけれど、そんな気なのではありません。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「今、人殺しと言ったなあ、たしかにここいらだぜ、おいらの僻耳ひがみみじゃねえんだ」
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それは僻耳ひがみみであったろう、やっと静々と、羽衣を着澄きすまして、立直ったのをて、昨夜紅屋の霜にひざまずいて、羽織を着せられた形に較べて、ひそかに芸道の品と芸人の威を想った……時である。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし、人の足音と思ったのは僻耳ひがみみでしょう。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)