偏執へんしふ)” の例文
やはらいだ感情、寂しいと思ふあこがれ、よこしまねたみとがもつれあつた偏執へんしふ。これ等のものが一しよになつて彼の涙腺に突き入つたのか。彼は詞もなく泣いた。
夜烏 (新字旧仮名) / 平出修(著)
いかに金尽かねづくでも、この人種の偏執へんしふには勝たれない。ある日の暮、籠に乗せられて、夕闇の空に紛れて病院を出た。籠は其儘そのまゝもとの下宿へかつぎ込まれて、院長は毎日のやうに来て診察する。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
領主 その曲事きょくじゆゑに、即刻そっこく追放つゐはう申附まうしつくる。汝等なんぢら偏執へんしふ予等われらまでも卷込まきこまれ、その粗暴そばう鬪諍とうじゃうによってわが血族けつぞく血汐ちしほながした。わがこの不幸ふかう汝等なんぢらにもくやますため、きびしい科料くわれうくわさうずるわ。
一人彼是かれこれと申こばむは偏執へんしふの致す處か再吟味は天下の法にそむく相成ぬと申せとの事なれば伊勢守はおほかしこまり奉り候とてやがて芙蓉の間へ出來いできたり上座につき越前上意なりと申渡さるゝに越前守にははるかに引下りて平伏へいふくなす此時高木伊勢守申渡す樣は八山御旅館に居らせられ候天一坊身分越前我意がいつのり再吟味願の儀は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)