いなせ)” の例文
西の内二枚半に筆太に、書附けたる広告の見ゆる四辻よつつじへ、いなせ扮装いでたちの車夫一人、左へ曲りて鮫ヶ橋谷町の表通おもてどおり、軒並の門札かどふだを軒別にのぞきて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
万一これが永い別れになるかも知れないと云って、水盃などをして、刺青ほりものだらけのいなせな兄いが、おい/\泣きながら川崎あたりまで送られてまいり
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あの仁は風貌とこしらえが江戸末期的の感じで、それが都々逸とあいまっていい「いなせ」を感じることがありました。
随筆 寄席風俗 (新字新仮名) / 正岡容(著)
宗匠そうしょうらしい老人から、いなせとびらしい若者も通る。ごった返しているのである。時刻からいえば夕暮れ近くで、カッと明るい日の光が、建物にも往来にもみなぎっている。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
芸者の揃いの手古舞てこまい姿。佃島つくだじま漁夫りょうし雲龍うんりゅう半纏はんてん黒股引くろももひき、古式のいなせな姿で金棒かなぼうき佃節を唄いながら練ってくる。挟箱はさみばこかついだ鬢発奴びんはつやっこ梵天帯ぼんてんおび花笠はながさ麻上下あさがみしも、馬に乗った法師武者ほうしむしゃ
それ世に、とびの者の半纏はんてんいなせにして旦那の紋着もんつきは高等である。しかるに源ちゃんは両天秤りょうてんびん、女を張る時は半纏で、顱巻はちまき
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大べそで今松が高座から下りてくると、宵から正面桟敷にいた痩せぎすの刺っ子を着たいなせかしらがガラリ楽屋の板戸を開けて入ってきて、二十銭銀貨一枚くれた。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
丸味を帯びた細い眉、切長で涼しくて軟らか味のある眼、少し間延びをしているほど、長くて細くて高い鼻、ただしまげだけは刷毛先はけさきを散らし、豪勢いなせに作ってはいるが、それがちっとも似合わない。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
店先で癇癪かんしゃく持らしい、いなせな主が豆絞りの手拭で向こう鉢巻をして、セッセと浅蜊の殻を剥いていた。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
それはそれとし、「神田」をすべて「かッたぁ」で発音してしまうと「かッたぁの明神」「かッたぁ祭り」「かッたッ子」とくるから、物事万端すこぶるいなせにならざるを得ない。
寄席行灯 (新字新仮名) / 正岡容(著)