仔猫こねこ)” の例文
仔猫こねこが垣根から両人をのぞいてつまらなそうに草の穂にたわむれているのを、左膳はちらりと見て刀痕をくねらせて——笑ったのだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「ああ結構です」と臼井はのない茶に咽喉のど湿しめし、「早く分って頂くために、そうですなあ、ああそうだ、仔猫こねこのお話をしましょう」
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
(3)昼間でもよく天井でねずみが騒いでゐたし、それに困つて、お爺さんお婆さんが仔猫こねこを飼つたくらゐだから、きつと、鼠のしわざにちがひない。
仔猫の裁判 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
私はふとヴェルネ・クラブでちらっと見た美しい婦人の抱いていた仔猫こねこのことを思い出し(どうしてだか、それがずっと数日前のような気もしたが)
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
欧洲おうしゅう種の可愛らしいのがいるからと云って、生後三ヶ月ばかりになる雌の仔猫こねこを貰ったのが、リリーだったのである。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ただ、仔猫こねこがじゃれるように遊び合っていた友達の中にも何かせんには気の付かなかったいろいろなことが、珍らしい彼等の姿をチラチラと見え隠れさせる。
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
此処にしようと決心して、ひもを解き、背中から子供を抱きおろした。——子供は眠ったまま両手でぎゅっとしがみつき、仔猫こねこのするように顔をすりつけた。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ふたりは水からあがったばかりの仔猫こねこのようにしょんぼりつっ立って、もの悲しげに夕暮をみた。もうかれらにはいくところがない。すべては終わってしまった!
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
葉子はその時少し熱があって、面窶おもやつれがしていたが、子供のこととなると、仔猫こねこを取られまいとする親猫のように、急いで下駄げたを突っかけて、母屋おもやの方へけ出して行った。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
また仔猫こねこ同志がよくこんなにしてふざけているがそれでもないようである。なにかよくはわからないが、とにかくこれは非常になまめかしい所作であることは事実である。私はじっとそれをながめていた。
交尾 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
寵愛ちょうあい仔猫こねこの鈴の鳴り通し
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
楯岡たておかのときと同じだな、と功刀くぬぎ功兵衛は思った。楯岡平助のときと殆んど同じだと、——裏のほうで仔猫こねこのなく声がし、窓外のひさしに枯葉の散りかかる音が聞えた。
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
仔猫こねこの時にはあんなに快活に、愛くるしかった彼女の眼が、いつからそう云う悲しげな色を浮かべるようになったかと云うと、それがやっぱりあの初産の時からなのである。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
後を向いて、ごそごそやっていた小山嬢が、くるりとこっちへ向き直ったと思うと、彼女の手に一疋の仔猫こねこがあった。それをきっかけに美貌の青年も、廻れ右をして、仔猫を見ることを許された。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もっともこれがまだ頑是がんぜない仔猫こねこであったら、訳なく懐くのであろうけれども、こう云う老猫ろうびょうになって来ると、人間と同じで、習慣や環境の違った場所へ連れて来られると云うことが
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
安宅は十二三のころから、仕事をしている久太夫の側に、さえが来ているのをしばしば見かけた。痩せた小さな子で、色が黒く、怒った仔猫こねこのように、いつも挑戦的なきつい眼つきをしていた。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
仔猫こねこかい
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まるで仔猫こねこのような従順さで、手ばしこく兄の世話をした。