乃公だいこう)” の例文
主人の貪欲不人情、かまどの下の灰までも乃公だいこうの物なりと絶叫して傍若無人ならんには、如何に従順なる婦人も思案に余ることある可し。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
たといいかなるものでも、社会の階級の何種に属する女でも乃公だいこうが気に入ったものをという主張をして、華族でも、士族でも、町家の娘でも
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
然し店硝子みせがらすにうつる乃公だいこう風采ふうさいを見てあれば、例令たとえ其れが背広せびろや紋付羽織袴であろうとも、着こなしの不意気さ、薄ぎたない髯顔ひげがおの間抜け加減
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その次に剽軽ひょうきん者として、両者の失敗をつぶさに見て取っているにもかかわらず、しからば乃公だいこうがと、またまた現われ出て来たのは久吉翁である。
現代茶人批判 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
前後を切断せよ、みだりに過去に執着するなかれ、いたずらに将来に望を属するなかれ、満身の力をこめて現在に働けというのが乃公だいこうの主義なのである。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
弱く、あさましき人の世の姿を、冷く三つ列記したが、さて、そういう乃公だいこう自身は、どんなものであるか。
あさましきもの (新字新仮名) / 太宰治(著)
左様な美女をよぼ/\の老翁ろうおうや位の低い平中ごときにまかしておくと云う手はない、すべから乃公だいこうが取って代るべしである、と、ひそかに野心を燃やしていたところへ
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
(勝家はすでにく。この上は乃公だいこうを勝家と思え。やがて帰国もできるから、その方のために、どこか大国一ヵ城をおこなうであろう。よくよく思い直すがいい)
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然し、乃公だいこうの見るところは又違ふ。誰も名前をあげなかつたが、黒田のビッコが爆弾小僧といふ奴だ。
黒田如水 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
乃公だいこう一度びいずれば手に唾して栄職につく事が出来ると考える。そして何分にも長い学生生活に倦きているから、社会に出て働くと云う事に無限の興味と期待を持っている。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
乃公だいこうならでは夜の明けぬ、頼みある中の同盟やと、ぐつと乗地のきた南。
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
古人は何故にこの好題目をのこして乃公だいこうに附与したるかとあやしむに至るべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
と、乃公だいこうのでる幕は、まだまだと言わぬばかり……大之進も相当の人物で、乱陣のにわをすこしはなれた路傍の切り株に腰をおろし、大刀を杖にだいて、ジッと左膳のようすに眼をこらしている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
誰か大いに安石あんせきを気取り、乃公だいこう出でずんばの慨を以て、飛び出して来るものはないだろうか。既成文壇の四五の大家が、雑誌経営者に強要され、心ならずも誤って、探偵小説を作ったことがあった。
日本探偵小説界寸評 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
よせやい、乃公だいこうを甘くみるなよ、細工は流々仕上げをご覧だ。
支那の狸汁 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
傍聞かたえぎきする女房を流眄しりめに懸けて、乃公だいこうの功名まッこのとおり、それ見たかといわぬばかり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
徳川、前田、蒲生がもう、上杉、各人各説、色々と説のでるのを秀吉は笑つてきいてゐたが、よろし、先づそのへんが当つてもをる、当つてもをらぬ。然し、乃公だいこうの見るところは又違ふ。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
こんどは向うから妙な顔色をした一寸法師が来たなと思うと、これすなわち乃公だいこう自身の影が姿見に写ったのである。やむをえず苦笑いをすると向うでも苦笑いをする。これは理の当然だ。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
乃公だいこういでずんば、蒼生そうせいをいかんせむ、さ。三十八度の熱を、きみ、たのむ、あざむけ。プウシュキンは三十六で死んでも、オネエギンをのこした。不能の文字なし、とナポレオンの歯ぎしり。
HUMAN LOST (新字新仮名) / 太宰治(著)
(天下、乃公だいこうく武略家あらんや)
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)