主屋おもや)” の例文
杜氏はまた主屋おもやの方へ行った。ところが、今度は、なかなか帰って来なかった。障子の破れから寒い風が砂を吹きこんできた。ひどい西風だった。
砂糖泥棒 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
……爺の左近は正成が見終った沢山な簿冊ぼさつを両手にかかえてひとまずそこをさがってきた。そして納戸なんどへむかって主屋おもやの大廊下をまがりかけると
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて三人は主屋おもやを抜け、ギヤマン室をつないでいる、長い廻廊へ現われた。やがて三人は見えなくなった。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
きゅうに彼女が、樹の上でれるように泣きだした。弟もぼろぼろと涙を流した。そして主屋おもやの方へ一散に駈けながら、遠くの彼女と声を合せて泣いていった。
青草 (新字新仮名) / 十一谷義三郎(著)
方便的表現のつもりのところが、いつか主屋おもや迄とられるという場合があると思うのです。ですからその意味では、舌足らずが混迷に導かれないことの戒心が実に実に必要なのね。
山の手の屋敷町にあるMの家は、募つてくる夜の寒さに軋む雨戸の音さへ身に染む程の靜けさで、殊に主屋おもやと離れたMの書齋は、家人との交渉もなく、思ひのままに話は進むのです。
S中尉の話 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
建築技術の進歩もまたこれを促している。住居の変化の主要なるものは、一つには客来が頻繁になって、そのために毎回仮屋かりやを建てることができず、できるだけ主屋おもやと合併しようとしたことである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そして主屋おもやの中央の部屋には、型のごとく、出陣の式のカチ栗や昆布こぶ折敷おしきに、神酒みき土器かわらけなども運ばれていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主屋おもやと繋がれてはいたけれど、全く独立して立っている建物、外構えは純然たる和風ではあったが、内部の装飾は阿蘭陀オランダ渡りの、珍奇の品によってなされているところの
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして主屋おもやとその敷地ぐらいは十分のこる勘定になるそうです。そう例の爺さんがお母上に申した由です。大変結構です。あなたもいろいろ配慮してお上げになった甲斐があるというものです。
その時、サラサラと音を立てて老人としよりの下僕が主屋おもやの方から落花を掃きながら近寄って来たが
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
やがて、彼女も主屋おもやへ帰った。そしていつものように、釜殿かまやの大土間で夕餉ゆうげ働きをしている女童めのわらわ下部女しもべおんなにさしずなどしていると、遠い所の表門で、あわただしい駒音がひびいていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この湯殿は主屋おもやと離れてたててあり、そうして主屋よりひくくたててあった。
猿ヶ京片耳伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
周囲を廻れば五町もあろうか、主屋おもや離室はなれ、客殿、ちん厩舎うまや納屋なやから小作小屋まで一切を入れれば十棟余り、実に堂々たる構造かまえであったが、その主屋の一室に主人紋兵衛はせっていた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三方厚い壁であり、その壁々には明りとりの、鉄格子をはめた窓ばかりが、わずかについているばかりであった。主屋おもやに向いた方角に、出入り口がついていた。土蔵づくりの建物なのである。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……いえそれよりもっともっと、大事なことがあるのです。それはお母様とお父様なのです。まあどうでしょうお父様と来ては、年が年中離座敷はなればかりにいて一度として主屋おもやへはいらっしゃらない。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、主屋おもやの雨戸があいて
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)