主婦かみさん)” の例文
店先には葡萄酒ぶどうしゅの立飲をしている労働者風の仏蘭西フランス人も見えた。帳場のところに居た主婦かみさんは親しげな挨拶あいさつと握手とで岡を迎えた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
加藤の家では主婦かみさんが手伝って小倉と二人がかりであの大きな本箱を二階に持って上って置き場を工夫しているところであった。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「これがお茶屋に行かずかと言いますがどんなもんでござんすら。」と母親が大分経ってから、おずおず言い出したとき、主婦かみさんはお庄の顔を見てニヤリと笑った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
主婦かみさんを呼ぶや否や、今おれの宿の提灯ちょうちんけた車に乗って、これこれの男が来るから、来たらすぐ綺麗きれいな座敷へ通して、叮嚀ていねいに取扱って、向うで何にも云わない先に
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あの女でなくつたつて、お蔭さまなことに、村にやあ好いが、ざらにあらあな。オクサーナがなんだい? あんな女は主婦かみさんにやあむかないさ。あいつはおめかしの名人といふだけのことぢやないか。
よく働く仏蘭西の婦女おんなの気質を見せたような主婦かみさんは決して娘を遊ばせては置かなかった。何時いつ来て見ても娘は店を手伝っていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
主婦かみさんは帳場のところへ来てお辞儀をするお庄のめっきり大人びたような様子を見ながら訊いた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
主婦かみさんうちの内でも手拭を冠り、藍染真綿を亀の甲のやうに着て、茶を出すやら、座蒲団を勧めるやら、金米糖こんぺいたうは古い皿に入れて款待もてなした。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
段梯子の下に突っ立っていながら、目の悪い主婦かみさんは、降りて来るお庄の姿を見あげて言った。お庄は牡丹の模様のある中形ちゅうがたを着て、紅入べにい友禅ゆうぜんの帯などを締め、香水の匂いをさせていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そこには、おそろしく倹約に暮している下宿の主婦かみさんが、燈火あかりけ惜んで、薄暗い食堂のすみに前途の不安を思いながらションボリ立っていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お島は可羨うらやましそうにその後姿を見送りながら、主婦かみさんに言った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
門口に主婦かみさん、『御機嫌よう』の声も聞える。見れば下宿の内は何となく騒々しい。人々は激昂したり、憤慨したりして、いづれも聞えよがしに罵つて居る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
急に入つて来た少年に妨げられて、敬之進は口をつぐんだ。流許ながしもと主婦かみさん、暗い洋燈ランプの下で、かちや/\と皿小鉢を鳴らして居たが、其と見て少年の側へ駈寄つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
表をったり来たりする他の主婦かみさんで、彼女のように束髪にした女は、ほとんど無いと言ってもい。この都会の流行におくれまいとする人々の髪の形が、ず彼女を驚かした。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)