不覚そぞろ)” の例文
旧字:不覺
日頃の本望も遂げむことは難く、我がやりも太刀も草叢くさむらに埋もるるばかり、それが無念さの不覚そぞろの涙じゃ、今日より後は奥羽の押え
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
院長いんちょう不覚そぞろあわれにも、また不気味ぶきみにもかんじて、猶太人ジウあといて、その禿頭はげあたまだの、あしくるぶしなどをみまわしながら、別室べっしつまでった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
想ふに彼等の驚愕おどろき恐怖おそれとはその殺せし人の計らずも今生きてきたれるに会へるが如きものならん。気も不覚そぞろなれば母は譫語うはごとのやうに言出いひいだせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こころ不覚そぞろ動顛どうてんして、いきなり、へや飛出とびだしたが、ぼうかぶらず、フロックコートもずに、恐怖おそれられたまま、大通おおどおり文字もんじはしるのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
に世間の娘の想ひに想ひ、望みに望める絶頂はまさおのれのこの身の上なるかな、と宮は不覚そぞろ胸に浮べたるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そこで忠興も後に吾が所望したことが不覚そぞろであったことを悟って、返そうとしたところが、氏郷は、一旦差上げたものなれば御遠慮には及ばぬ、と受取らなかった。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
貫一の声音こわねやうや苛立いらだちぬ。彼の得言はぬを怪しと思へばなり。宮は驚きて不覚そぞろ言出いひいだせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)