一躰いったい)” の例文
年は四十から六十のあいだで、四十代の精悍せいかんさと、六十代のおちつきとが少しの不自然さもなく一躰いったいになっているようにみえた。
一躰いったい自分の以前には如何どんな人が住んでおったかと訊ねたが、初めの内はげんを左右にして中々なかなかに真相を云わなかったがついにこう白状した、そのはなしによると
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
「はい、そうです」こたえながら先方さき此方こちらを向いて来て、二人が近寄ってみると、先刻さっき帰した書生なので、「君は、一躰いったい如何どうしたのだ、僕は盗賊どろぼうだと思ったよ」
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
恐ろしさとにえかねて、跳起はねおきようとしたが、からだ一躰いったい嘛痺しびれたようになって、起きる力も出ない、丁度ちょうど十五分ばかりのあいだというものは、この苦しい切無せつなおもいをつづけて
女の膝 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
一躰いったい、この小使部屋のあるところというのは、中庭を間に、一方が死体室で、その横には、解剖学の教室があるのだが、この小使が初めて来たのが、あたかも冬のことで、夜一人で
死体室 (新字新仮名) / 岩村透(著)
東北とうほく地方は一躰いったい関西かんさい地方や四国しこく九州きゅうしゅうの辺とちがって、何だか薄暗い、如何いかにも幽霊が出そうな地方だが、私がこの夏行った、陸中国遠野郷りくちゅうのくにとおのごう近辺あたりも、一般に昔からの伝説などが多くあるところだ。
テレパシー (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
彼は「今では、最早もはや馴れましたが、此処ここへ来た当座は、実に身の毛も竦立よだつ様な恐ろしい事が、度々ありました」というので、弟はひざを進めて、「一躰いったい、それは如何どんな事だった」といて訊ねたので
死体室 (新字新仮名) / 岩村透(著)