一簇ひとむら)” の例文
小さな島の中に一簇ひとむらの楼舎があった。魚はそこへ飛びおりた。侍女の一人がもうそれを見ていて大声で言った。
竹青 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
踏分々々ふみわけ/\たどりゆきて見れば人家にはあらで一簇ひとむらしげりなればいたく望みを失ひはや神佛しんぶつにも見放みはなされ此處にて一命のはてる事かと只管ひたすらなげかなしみながら猶も向を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
雲は折々その山の頂からかけて一面に濃く中腹までも垂れ下って過ぎて行く、一簇ひとむらまた一簇、その度に寒さがじっと身に沁みる。八月の中旬だというのに、山の中で蝉の声一つしない。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
……余波なごりが、カラカラとからびたきながら、旅籠屋はたごやかまち吹込ふきこんで、おおきに、一簇ひとむら黒雲くろくもの濃く舞下まいさがつたやうにただよふ、松を焼く煙をふっと吹くと、煙はむしろの上を階子段はしごだんの下へひそんで
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)