一年あるとし)” の例文
一年あるとし巡廻じゆんくわいしたことります。わたくし七才なゝつときです。ころは、いま温泉をんせんかつたやうですね。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一年あるとし、激しい旱魃のあつた眞夏、女優村井紫玉を主とした新劇團が、北陸の都で興行して、人氣を博した時の事である。美しい女優は人目を避けて市中の見物に出た。
隣のかねさんが苗をくれた南瓜とうなすの成長を見に来たついでに、斯様こんな話をした。金さんの家に、もと非常によく葡萄ぶどうがあった。一年あるとし家の新ちゃんが葡萄をちぎるとたなから落ち、大分の怪我をした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一年あるとし先生せんせい名古屋なごやあそんで、夫人ふじんとは、この杉野氏すぎのしつうじて、あひんなすつたので。……おまへたち。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一年あるとし夏のなかば驟雨後ゆふだちあとの月影さやかにてらして、北向きたむきの庭なる竹藪に名残なごりしづく白玉しらたまのそよ吹く風にこぼるゝ風情ふぜい、またあるまじきながめなりければ、旗野は村に酌を取らして、夜更よふくるを覚えざりき。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)